SEIKOの秘密その15

この機械をご覧ください。



大きなチラネジ付きテンプに金メッキされた美しい地板・・・。
しかし、セイコーの懐中時計としては、見た事の無い様な機械ですね。

これは、1964年製の『Cal.890』と呼ばれる機械で、東京オリンピック開催に向けて、
東京オリンピックの公式計測担当となったセイコー(第2精工舎)さんが、
世界で始めて実現した計測誤差自動補正機能付きスプリット・セコンド・ストップウォッチです。




2本の秒針が、スプリット・セコンド機能を誇らしげ(?)に表しております。

3個のプッシャーの機能は、下記の様になっています。
11時位置:リセット
12時位置:スプリット・セコンドハンド停止、ゼンマイ巻き上げ
1時位置:スタート&ストップ




やはり、動いてこそ楽しい時計ですが、スプリット・セコンドの動きをお伝え出来ない事が残念です。
はっきり言って、Aoには初めての割剣ですので、感動的でした。(苦笑)


この時計は、計測用に作られた実用品である為、測定精度に拘った作りが、随所に織込まれています。


たとえば、文字盤とハンドのズレを嫌い、文字盤を機械に直接ネジ止めしてあります。
テンプを支えるブリッジも、まるで天文台クロノメーター(45系)の様に両持ちのしっかりした形状です。
さらに、機械の大きさも非常に大きく(直径50mm!!)安心感のあるモノです。

そして、そのブリッジに支えられたテンプ軸には、ハートカムが装備されており
ストップ時には、必ず同じ場所でテンプが停止する工夫がされております。
さらに、このハートカム付きテンプの停止位置が同じという特性を利用して、
ハンドも必ず目盛り上に止まる機構(計測誤差自動補正機能)を持っています。


下の画像で、45GSと比較をしていますが、モノ凄く大きい事が分かって頂けると思います。

890と45GS比較



ちなみに、この個体の面白い所は、裏ブタの刻印です。

裏ブタ刻印拡大

TO
KARTING CLUB OF SINGAPORE
WITH COMPLIMENTS
OF
SEIKO WATCH FACTORY
TOKYO
2

詳しい背景は分かりませんが、セイコーが1964年頃にシンガポールのカートクラブに
何個かのスプリット・セコンドSWを寄贈したモノの一つの様です。
この側のヘタリ具合を見ても、当時は、積極的に使われた事でしょう。(納得!!)


余談ですが、当時のSEIKOさんの時計には、例えストップウォッチでも
恒例の『鶴』の刻印が打たれていました。これを見つけた時はちょっと嬉しかったです。(謎)



まさに計測の為のストップウォッチですから、ガンガンに使っても不安の無い動作です。(嬉)
が、とても残念な事は、機械を見ていてもスプリット・セコンドの機能の動きは全く分からない事です。

とはいえ、この様な素晴らしい機械を実現されたセイコーさんには、感動ですね。
出来る事なら、現在に蘇らせて頂きたい素晴らしい技術です。
ぜひ、腕時計で復活させて下さい。(懇願!!)>セイコーさん

#この貴重な逸品をガラ研に譲って頂いた”『熱帯のガラ師』こと、Coolさん”、本当にありがとうございました。