GEAR OF・・・

 

TDF極東支部が攻撃を受けている、その一報を聞いて咄嗟に走りだしていた。何故あんな行動に出てしまったのか、今でもよく理解していない、何故あいつを助けたいと思ったのか、何故あんな衝動に駆られたのか・・・・分からない。

だが一つだけ確実なことは、自分が何者であるか悟った今でも、恐らく同じ行動をとったであろうということ・・・・

 

 

轟音とともにイングラムの行く手の天井が一部崩れ落ちた。舞い上がった砂塵を防ごうと口と鼻を腕で塞ぎ、彼は目を細めた。目指す場所はこの通路の先だ。進むか否か一瞬逡巡する。現場状況を冷静に分析すれば取るべき行動は後者であろう。イングラムの思考も後者、『後退』という選択肢を導き出していた。

「あと少し・・・なんだが・・・」

ぱらぱらと自分の頭上からもコンクリート片が降ってくる。この場所もいつ崩れてもおかしくない。

だが・・・答えが欲しかった。ここまで無茶をしてでも欲しかった答えが、この通路の先にある。

「・・・イングラム!?そこにいるのか!?」

砂煙の向こうから不意に声が上がり、人影が現れた。

「・・・・烈、か!?」

名を呼ばれたことで確信を得たらしく、声の主はガレキを踏み分けて駆けてきた。

「烈、なんでこんなところに・・・ここは危険だ」

「おいおい!それはこっちのセリフだ。お前が一番最初に極東支部に飛び込んだんだろうが」

呆れ顔で服の埃を払いながら一条寺烈は続ける。

「他の連中は基地内の人間を避難誘導している・・・頃合いを見計らって脱出しているはずだ。俺達も早く避難したほうがいい」

「ああ。だが・・・」

イングラムは自分が向かおうとしていた通路の先を見やる。この先には独房があるのだ。烈もここに来た、ということは気になっているのだろう。

「なあ、イングラム・・・」

「っ!?」

何かを言いかけた烈の言葉を遮るようにぐらりと足元が揺れた。頭上から降るコンクリート片の大きさが変わる。

「逃げるぞ、イングラム!・・・イングラム!?」

崩落の兆候がはっきりと現れる中、イングラムは動かなかった。

「・・・・ユーゼス!!」

崩れた瓦礫の向こうに求めた『答え』を期待して、大声で呼びかける。

「ユーゼス!まだそこにいるのか!?ユーゼスッ!!」

最後の叫びも、戻って来たかも知れない答えも・・・崩落音にかき消された・・・・・

 

 

この時は、いつも感情的な烈の方がずっと冷静だったようだ。烈は俺を無理矢理引っ張って、極東支部から外に連れ出してくれた。烈がいなければ、俺も逃げ遅れて瓦礫の下だったかも知れない。らしくない独断行動に出た俺に、皆首を傾げていた。だが皆・・・俺の無事を喜んでくれた。

 

後日の調査でユーゼスのいた独房付近も調べられた。が、奴の姿はなく、近くに大きな血の染み跡だけが残されていたという。

結局、遺体は見つかっていない。

遺体が見つかっていないのならば、生存の可能性もある・・・烈が呟くように言っていた。限りなく0に近い確率でも無いよりはマシだ。どんな形であれ、生きていてくれればいい・・・この時は、そう思った。

そして今でも・・・心の何処かで俺は奴の無事を喜んでいる。何故なら奴は、ユーゼスは・・・鏡に映った俺なのだから。いや、俺が鏡に映ったもう一人の奴だと言った方がいいのかもしれない。

ユーゼスに言わせれば、俺は計画の歯車の一つに過ぎない。そして俺はかみあわなくなった『歯車』だ。かみ合わない歯車は排除される・・・まして俺という歯車が原因で計画全てに狂いが生じているとなれば、尚更だろう。

自分が何者であるか、知らなかったとして、俺はユーゼスを止めるだろう。奴がどう思っていようと・・・奴は俺達の『仲間』だったのだから。

自分が『ユーゼスのコピー』だと思い出した今。俺は『俺』を止める義務がある。世界の為だけでなく、俺自身の為にも。

ユーゼスは・・・鏡に映った俺だ。

俺は鏡を割らなければならない。歯車・・・コピーとしてでなく、俺が・・・俺として、世界に在るために。

 

                              2001  6  2   END

 


ヒロ作のイングラム話です。書いていて思ったけれど、極東支部が壊滅したときにイングラムやガイアセイバーズが基地内に入り込むのって、時間的に無理なんですよね・・・それでも、勢いで書き切りました。時間軸は目を瞑ってください。烈がいるのは、ユーゼスとのからみで、です。同僚だったし・・・こっそり、隣の『鏡』と連作です。

 

                                                    天野 蒼星

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