星月の刻〜ほしづきのとき〜
もうずっと歩いてきた。果たして自分が前に向かって歩いているのか、或いは違うのか、それすらわからない。
周囲は完全な無。
なにか在るのかもしれないが、視界に映るのは光すら閉じ込める夜の帳であったり、すべてをかき消す光塵の世界であったり・・・『存在』と確認できるものは一つとしてない。
光と闇の交錯する空間のただ中で、ふと自分の手を見る。
視線の先には確かに、見慣れた自分の手があった。何一つとして『存在』の確認できない世界の中に確かに『自分』が存在している。
ならばまだ、終わってはいない。
自分の『存在』を確かめるかのように強く掌を握りしめ歩を進める。
ここに『自分』がいること、それが全ての証。
ここに『自分』が存在していること、それが全ての理由。
砂に埋もれるかのように足取りは重く、大気は四肢に絡み付く。
萎えそうになる心を想いが押さえ付け、前へ、前へと歩を進める事ができるのは、ここに『自分』がいて、もう『自分』の存在を『自分』以外の誰にも干渉されないと、確信があるから。
『あの世界で自分がしてきたことは決して無駄ではない』
たとえ、この先に広がる未来が再び同じ時を繰り返すメビウスの輪の続きだったとしても、迷うことはない。再び記憶を失い『自分』を失ったとしても・・・
もう一度、きつく掌を握り締める。
帰る場所はただ一つ。間違えることなどない。あとははそこにたどり着くだけだ。
この無の世界を抜けて、最初に目にするものが何であったとしても・・・・・
『俺の存在は・・・決して無駄ではない・・・』