漢の料理はカレー三日!!
ある日唐突に招集が掛けられた。
「・・・・・・・で、今回の議題なんだが」
集められたガイアセイバーズの面々・・・烈、モロボシダン、流星(+スプリンガー)イングラム・・・を見やりながら、ハヤタは大きく息をつく。
「議題、というよりは提案なんだが・・・皆・・・」
声は限りなく重く、限りなく厳かに、限りなく切実に・・・・
「みんな、カレー以外の料理をマスターしてくれ」
『えぇぇぇーーーっっ』
「隊長、カレーのどこが悪いっていうんだよ。いーじゃないか、一回作ったら三食は持つし」
烈が早速抗議の声を上げる。
「いや・・・カレーがメニューとして悪いのではない。俺だって思わずカレースプーンとベータカプセルを間違えて掲げてしまう位、カレーは好きだ。だが!しかしっっ!!」
だんっ、と力一杯ハヤタは机を叩いた。
「全員が全員、カレーしか作れないのは問題大アリなんだ!!」
事の発端は最近決められた食事当番にあった。極東支部を離れ独立遊撃隊ガイアセイバーズとしてドルギランで世界を飛び回るようになり、部隊内でいろいろと当番が決められることとなった。例を挙げれば、掃除当番、洗濯当番等・・・その中に当然、『食事当番』もあった。
一回目の食事当番は烈だった。メニューはカレー。量の加減ができなかったらしく、大鍋いっぱいに作られたカレーを消費するまでに、次の日の朝、昼とカレーを食べ続けなければならなかった。
次の当番はダン。メニューはカレー。同じ献立が続いたのは他に作れるものがないから・・・という理由だった。男らしく大量に作られたカレーを食べ切るのに、丸二日かかった。
三回目、イングラム。料理そのものが作れなかったため、前任二人の手ほどきを受けて作ったのはカレー。
四回目、流星。目覚めたばかりで料理の知識がなく(以下略)
「思い起こしてみろ。我々はここ二週間ほど、カレーだけで生活しているんだぞ」
いわれてみればそうである。みんながみんなカレーばかり、しかも大量に作るから、そのカレーを消費して行くのに毎日カレーを食べていたのだ。
「・・・・提案なんだが」
す、と今まで黙っていたイングラムが挙手する。
「何も、作ったカレーを全部食べ切る必要はないのではないだろうか?部隊内のこのメンツで解決しようとせずに・・・例えば、賄いのものを雇うとか・・・」
問いに対するハヤタの返答は沈黙だった。沈黙の中、ごそごそと何かを取り出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・イングラム少尉」
にっこり笑顔v
「我々には・・・・金がないんだv」
笑顔と一緒にぱらりと開かれた部隊の家計簿(正しくは出納帳)は・・・・・・・・・・見事なまでに赤かった。
「・・・いいかー?我々にはどこぞの独立部隊のようにバックに財閥がついている訳でもなければ、兵站を担ってくれる余剰戦力があるワケでもない。その上、予算も少ないときている。このよーに戦闘を行ったり消耗品を購入したりするだけで、家計は火の車だ・・・この現状を見て、君には、君達にはまだ人を雇う余裕があるように見えるか?見えるのか?」
「は、ハヤタ隊長・・・」
当番の中にハヤタの名前が入っていなかったのはこういう雑務をしていたからだろう。なんだか、とっても哀愁を誘う。
「唯一の望みだったミミー君はバード星との生活習慣の違いから戦力外であることが判明済みだ。この先入ってくる女性隊員とかだって、どーみても家庭的なことは苦手そうだし・・・」
隊長、微妙にヒドいです。
「・・・そうだな、確かに我々でどうにかしなくてはならないようだ」
納得したように、ダンが一同を見渡した。
「どこまでできるかわからないが、新しく隊員が入ってくるまではなんとか頑張ろう」
見渡された一同は、神妙に一つ頷いた。
『料理は自分達がなんとかしよう』
言葉に出さず、ダンはテレパシーでハヤタに語りかける。
『だからハヤタ隊長・・・洗濯は任せた』
『ああ、任せろ。ウルトラ水流あたりでなんとかしてやる』
「あ、いい忘れたが」
話し合いに決着がつき、めいめい部屋を出て行こうとした隊員達にハヤタは声を掛けた。
「シチュー、ハッシュドビーフ、ハヤシライスは却下な」
『えぇぇぇーーーっっ』
ここから、ガイアセイバーズ、涙の脱・カレー作戦が幕を開けたのだった・・・・
ACT1 烈
「よし、今日は豚汁だ!みんな食べてくれ!!」
だんっ、と鍋一杯の豚汁を食堂の机に置く。一番料理心がありそうな烈が先陣をきってカレー以外の料理に挑戦したのだ。
「やればできるじゃない・・・ん?」
お椀のよそわれた豚汁の具を見て、ハヤタは眉を顰めた。
「コレは・・・」
じゃがいも、にんじん、たまねぎ。
「烈」←笑顔
豚肉、ピーマン、レタスにトマト。
「・・・カレーの具とサラダを一緒にして味噌で煮るなっっ!!」
「ちっ・・・バレたか・・・」
ACT2 ダン
「あれ?ダンはどこいったんだ?」
「今日の食事当番はダンのはずなんだが・・・」
訝しむ烈とイングラムを雑誌から目を上げた流星が見やる。
「ああ、ダンさんなら〃究極の料理〃だか〃至高の料理〃だかを求めて有名な美食家の所へ弟子入りしに・・・」
『ダ、ダンッッッッ!!』
その日以来、ダンの姿を見たものは、いない・・・
ACT3 イングラム
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
人数分の沈黙ののち、ゆっくり烈が口を開いた。なんとなく、ここで突っ込みを入れるのは自分の役目のような気がして。
「イングラム、コレはなんだ?」
目の前には皿に盛られた『何か』が湯気を立てていた。
「・・・・・・・わからん」
小さく、しかしハッキリキッパリ、イングラムは言い切った。
「とりあえず、食物以外のモノは使用していない・・・と、思う」
「仮定形かよッ!?」
形容し難い色艶、表し難いかほり、味は想像もできない・・・多分、口に入れたとしても想像できないだろう。そもそもコレに味は存在しているのだろうか。
「・・・・・・・食べてみるか?」
決して自分で味見してみようとはせず、イングラムは烈と、ハヤタと、流星を見た。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
再び、人数分の沈黙。
「流星、スプリンガー」
ややあって、ハヤタが懐から自分の財布を取り出した。
「すまないが、どこかの街で人数分カップめんか何か買って来てくれ・・・・レトルトカレーは不可だが」
ポケットマネーで隊員を救うハヤタの英断。
「分かりました・・・この時間なら夕方のタイムサービスに間に合うな・・・・行くぞ、スプリンガー!」
駆けていった流星を見送りながら、ハヤタはそっと皿を見た。一体どうやったら厨房にあった材料でこんなケミカルXを作り上げることができたのだろう。ある意味、才能である。
「や、やっぱりコレはちょっとな・・・悪いな、せっかく作ってくれたのに」
慰めるようにいいながらも、烈はさっさと皿を下げる。鼻孔をつく香りが、なんだかとっても危険信号だからである。
「・・・・・そうか・・・・ちっ」
「お、おいっ!!今の舌打ちはなんなんだ、イングラム!?おいってば!?」
ACT4 流星
「もういい、君は何も作らなくても」
ぽふ、とハヤタが流星の肩に手を置いた。
「目覚めたばかりで記憶があやふやなんだろ?いいから、な?」
前回のイングラムでの教訓から、記憶が曖昧なものには挑戦させないことにしたらしい。またケミカルXを作られては、それだけ材料がムダになるからだ。第一、みんなの胃袋が危険だ。
そんなワケで、流星、作る前からダメ出し。
そうこうしているうちに時は流れ、ガイアセイバーズは仲間を増やしながら爆進を続けて行く。余剰人員〜いわゆる二軍〜が増えたことで、兵站に関する悩みは解消され始めていた。当初、あれだけ隊員の頭を悩ませた食事当番もダンが
「色即是空、空即是色、人は生きる為に喰うのではないッ、喰う為に生きるのだッ!!」
の叫びとともに部隊に復帰したので解決されていた。一体どこで修行して来たのか、中華ばかりをマスターしてきたのだが・・・
だが、しかし。
部隊を預かるハヤタには重大かつ深刻な新たな悩みが浮上していた。
人員も増えた。戦力も増えた。ついでに地球を守る使命も増えた。
だが一つ、増えなかったものがある。
『ガイアセイバーズの予算』
「す、水道光熱費は隊員の特殊能力でまかなうとして・・・」
無論、彼は知らない。
「食費はどこから捻出しよう・・・
ガイアセイバーズが結成された理由も、自分が慣れない経理と格闘する原因も・・・すべてが自分自身に帰すことを。
「・・・あああ・・・今月も赤字だ・・・」
自室の机で家計簿〜出納帳〜と向き合いながら、頭を抱えて小さく呻く『光の巨人』の姿がそこにはあった・・・・・・・・・・
がんばれ、光の巨人!まだまだ仲間は増えてくゾ!!
〜劇終〜
4月7日 天野蒼星
あとがき
久々にガイアセイバーズを書きました。そして久々に笑えるネタだと思うのですが・・・いかがだったでしょう?自分としてはあんまりイングラムが書けなかったことが心残りですが・・・
しかし・・・ダンのセリフが元ネタ『クッキングファイター好』だなんて知らないよ・・・・・
こちらはなるぅさんへのキリリクとなっております。
・・・・天野、初めてキリリクを上げました!(ダメダメ)