「では、試食して貰いましょうか、審査員のみなさん」
 
食ターイム!
 にっこりと微笑んだシュウは、どこから見ても
爽やか美形さんだった。そんな爽やか
笑顔を浮かべて手に持った鍋には、水面に浮かべた油のようにてらてらと色を変える極
彩色の液体が揺れている。もはやどのような物質で構成されているのか検討もつかない。
「私の故郷の料理です。滋養強壮にいいんですよ」
 ナゾの虹色の液体・・・けっしてスープなどとは形容できないシロモノが審査員席に
用意されていた白い皿に注がれていく様を、三人はぼんやりと眺めていた。
『逃げなければならない』
 心の中で力いっぱい本能が叫んでいる。だがそんな声とは裏腹に体は動いてはくれな
かった。自然と笑みが零れる・・・・絶望と言う名の、乾いた笑みが。
 逃げた所でなんの解決にもなりはしないのだ。目の前に迫ったこの危機が三分先に延
びるだけ。いや、延びるどころかより強大となって追っかけてくるだろう。ならば・・・・
「どうせ逃げても無駄なら・・・っ!俺は最初から立ち向かってやる!!ライ、アヤっ!!
俺のこと、忘れないでくれよ!!
チキショーっっ!
「あ、リュウ?!」
「リュウセイ!早まるな!!」
 制止は一歩及ばなかった。力いっぱい握り締めたスプーンで掬われた一口分の虹色の
液体が、ごくりとリュウセイの喉を通る。
「・・・・・・・・・・・・」
 かたり、と手にしていたスプーンが机に落ちた。
「リュ、リュウ・・・・?」
 声をかけてもリュウセイは動かない。スプーンを持ったままの姿勢で固まっている。
「・・・・!瞳孔が開いている!?」
「はうっ、よく見ると呼吸が停止してるわ!?」
「リュウセイ、リュウセイっ!しっかりしろっっっ!!」
「心肺蘇生の手順はまず肩を叩いて意識を確認っっっ」
 錯乱の言葉を叫びながらもアヤは渾身の力を込めてリュウセイの肩を叩く。と、その
拍子にぐらりとリュウセイの体が揺れた。
「 っ・・・」
「リュウセイ!」
「リュウ、よかった!意識が戻ったのね!?」
 軽く咳き込みながら頭を振り、リュウセイは小さく頷いた。
「俺・・・王様に会ってきたよ・・・それで・・・
『おおリュウセイ、死んでしまうと
は何事じゃ!』って・・・言われた・・・」
 ふふ、と笑って遠くを見る。それは死線を越えた者だけが見せる表情だった。
「・・・・復活までに二分、ですか・・・・まあまあの結果ですね」
 腕時計で確認しながらシュウは頷く。
「次は俺の番か・・・・」
 すべてを無視した嫌みなくらいのマイペースでイングラムは皿に自分の作った物体を
盛り始める。見た目はクリームシチューのようでシュウの液体のように強烈なインパク
トがある訳ではない。ただ、こっそりと浮いている茎のような具が不安を誘う。まあ、
切っているのを見たから『
』であることは確かなんだろうが・・・
 これなら食べれる・・・かもしれない。まだ遠いお空を眺めているリュウを横目で見
つつ、ライは思った。とりあえずイングラムが薬品を入れていたところは見ていない。
だとしたら純粋に『食品』だけで構成されている・・・と、信じたい。
「ライ、食べるわよ」
「・・・・大尉?」
 決意を込めた瞳でアヤはシチューを見つめていた。
「リュウが遠いお空から復活したら、きっとまたヤケを起こしてコレまで食べちゃう。
そしたら・・・今度こそ、リュウ、死んじゃうわ」
 淡々と続けるアヤの言葉にライも頷いた。
「でも・・・その前に私達が食べとけば・・・少なくともリュウはコレを食べなくて済
む。私たちの身代わりになってくれたリュウの為にも・・・・!」
 いつの間にリュウは身代わりになったのですか?自爆しただけではないのですか?
「・・・分かりました、大尉。食べましょう・・・」
 ふ、と笑みを浮かべてライとアヤはまだ遠いお空から帰って来ないリュウを見やる。
「リュウセイ、後は頼んだ・・・!」
「リュウ、貴方と会えて、楽しかったわ・・・」
 万感の想いを込めてスプーンを口に運ぶ二人。そんな二人を眺めながら憮然とした面
持ちでイングラムはぼそりと呟いた。
「・・・不味いモノを作った覚えはある。だが毒を作った覚えはない・・・・」
 お前たちはSRX計画の貴重な素材なのだから・・・
 続けられるはずだった言葉は心の内でのみ語られ、代わりに口許には薄い笑みが宿る。
「・・・・・!」
「・・・・ぐう・・・・・」
 一方、シチュー(らしきモノ)を食べたアヤとライは今まで正に『味わったことのな
い』苦痛を味わっていた。
 不味い。
 どうしようもなく、不味い。
 物理的に不味いのだ。シュウの料理のように一瞬にして臨死体験まで吹っ飛ばされる
わけでもなく、ただ純粋に、不味い。気を失うことが出来ればこの味からも逃げ去るこ
とが可能だ。だがそれすら許してくれないほどに・・・・不味い。
もう口腔にソレは残っていないはずなのに、それでも舌は強制的に味を脳へと伝達して
いる。
〃こ、このままではッ・・・・!〃
 冗談抜きで死ぬかも、ぽそりとライの冷静な部分が呟く。不味い食べ物の味で狂い死
ぬのは御免だ。激痛に達した不味さの中で必死に打開策を考える。と、その時・・・ラ
イの視界にアヤの姿が映った。
(ライ、このままじゃ危ないわ!私・・・こうなったらやってみる!)
 瞳にうっすら涙を浮かべながらも小さく微笑み、アヤは・・・
「!」
 アヤはいきなり、シュウの液体を食べた。
(大尉!?)
 ばったり倒れ伏すアヤ。だがその瞬間にはライもアヤの言わんとすることが理解でき
た。
 イングラムの料理を食べる→冗談抜きで死ぬほど(死ぬかも)不味い。気絶も出来な
い→シュウの料理を食べる→気絶→臨死体験→?。
(そうか!シラカワ博士の料理を食べれば、とりあえずこの不味さからは逃れられ
る!!)
 最後の力でスプーンを手に取ったライは、迷う事なくシュウの料理を一口食べた――


 数分後。
 審査員席には遠いお空で空中散歩を楽しむ三人組が出来あがっていた。
「・・・やりますね、少佐。自ら私の料理に手を伸ばさせるとは・・・」
 律義にイングラムとシュウは二人して料理の後片付けをしながら、お互いにお互いの
ナベを眺める。
「毒を作ったつもりはなかったのだが・・・・」
「私だって毒を作ったつもりはありません」
 虹色の液体と殺人シチューは未だ鍋に残されたままただ。それをじっと見つめ、シュ
ウはどこからかコルク栓付き試験管を取り出した。
「それ、分けていただきたいのですが」
 つい、と殺人シチューを指さして試験管を振る。どうやらどんな成分が含まれている
か分析するつもりらしい。
「構わん。だがそちらのソレも分けて欲しい」
 すい、と虹色の液体を指さしながらイングラムも懐から試験管を取り出す。あんたら
いつも持ち歩いてるのか、試験管。
「それで・・・どちらが勝ったことになるんでしょうか」
「審査員が・・・あれでは、な」
 視線の先には相変わらず遠いお空の住人と化しているリュウ、ライ、アヤの姿があっ
た。
 この後、三人が復活してくるまでに数時間を有したという。そして・・・死線を共に
越えた三人には熱い友情と篤い信頼が生まれたとか、生まれなかったトカ。

 そのころ、熱い友情が生まれたかもしれない当事者二人は。
「・・・このシチューには本当に駱駝の乳とワラと香草しか入っていないというのです
か!?それであのダメージとは・・・!さすがEOT・・・やりますね、イングラム=
プリスケン・・・やはり彼は危険なようですね・・・」

「・・・2、3、この地球上では未確認の物質が含まれている・・・シュウ=シラカワ、
やはりヤツは危険なようだな・・・注意しておかなければ・・・」

 お互いの料理の分析結果から、更にお互いの溝を深めたのだった。
恐るべし!料理勝負!!

どっちの料理ショー!〜勝者と敗者に祝福を、編〜完


リヴィーのサイトのオープン記念に贈った品。ナゼ料理勝負なのは、作者にだってわかりゃしない。

身内のなかでは非常にメジャーな一品。続編もあり。

ちなみに「モンゴルの菓子」は実在します。リヴィー曰く、「草の味」。非常に不味いらしい・・・

「これ、。マジ、。・・・・!!そう、の味!!匂いすら藁と土!!」(リヴィー談)                                                      

モンゴル、恐るべし・・・・・!!

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