「・・・う、ぅーん」
誰もいなくなった室内でややだらしない声をあげ、カイは大きな伸びをした。
「っはぁ。もう10時か・・・そろそろ区切りをつけようかな」
今日の仕事はもうとうに片付いている。あれもこれもと雑務に手を延ばす内にこんな時間になってしまったのだ。
「私の悪い癖だよな、コレ」
苦笑すると机の上を片付けて明かりを消す。
と、窓の外がぼんやりと輝いているのが目に止まった。
「・・・ああ」
弥生の細月に真白に生える桜の花。
まだ満開とはいかないが薄紅の蕾よりは開いた花弁の方が多いようだ。
「もう咲いてたんだ・・・気がつかなかったなあ」
毎年心待ちにしていたというのに、傍らの木を見上げる心の余裕すら無くしていた。
「いけないな。これじゃ」
戒めるように軽く頭を小突くと掛けておいたコートを羽織る。
もう仕事はここまでにして、家に帰ろう。
その前に少しだけ、あの桜の下で夜空を見上げよう。
「そうしたら、明日もまた・・・」
一瞬目を伏せて、手を翳し、見上げる花弁と透かした夜空。背を預けた桜の木がそっと背を押してくれた気がした。
傾きかけた細月が、ただ静かに、残光を投げかける。静かな、夜の出来事だった。
END
2004.5.19 天野蒼星
あとがき
三月に某友人に送ったメールの改訂版です。故に桜・・・
題名の「元気を出して」は友人に送った言葉っす。
元気出せよ〜