3年G組  社会科授業指導案
                             1999年6月17日(木) 第4時限 教室
                                    授業者   伊 藤 育 雄
 
         子どもの権利条約
 
       (2.日本国憲法と基本的人権「人権尊重の広がり」…6時間完了<本時6/6>)    
 
子どもの権利条約について
 この条約は、1959年の「子どもの権利宣言」を実行すべき条約として、1989年の国連総会において全会一致で採択された。日本は、1994年5月に批准した。しかし、こうした国際社会の動きに反して、「ストリートチルドレン」・「児童虐待」という問題が世界各地でおこっている。
 「ストリートチルドレン」は大人の勝手でつくられたホームレスの子どもたちであり、南米や東南アジアの大都市のスラムに3000万人〜1億人いるといわれている。南米では、「街の浄化」と称して、地域の大人たちに銃殺されている。彼らが物売り・残飯あさり・窃盗までするのは、それは生きていくためであり、何の保護もない彼らが窃盗をすることを責める前に、彼らを作り出してしまった社会の責任を問うべきであろう。
 「児童虐待」は先進国でも深刻な問題になってきた。「言うことを聞かない子は、私の子ではない。」と親から暴力を受け、ひどい場合には命を失うケースもイギリスで報告されている。わが国でも、児童虐待の電話相談に相当数の相談が持ち込まれているという。 
 
・教材化にあたって
 こんな状況の中で、「子どもの権利条約」の精神や具体的な条文を学習することは、生徒自身の権利の問題として必要である。教科書では、日本国憲法の基本的人権についての学習の終わりに、1ページ分のスペースをこの権利条約の解説に使っている。したがって、基本的人権学習のまとめとして、生徒の身近な問題と結びつけながら、この「子どもの権利条約」の学習を進めていきたい。
 
・授業化するために
 政府訳は、かなり難解な用語が用いられている。そこで、テレビ朝日の「ニュースステーション」製作の『こどもの権利条約』を使用し、政府訳と民間訳と両方の訳を読みながら条文を理解させ、生徒の身近な問題と結びつけて考えさせていきたい。また、授業書をつくり、問題を解くなかで話し合いをしながら進めていきたい。
 
・本時の流れ
 ☆@ 条約では、何歳までを「子ども」というのか、話し合う。【10分】 
 ☆A 「意見を言う権利」について、自らの体験を出し合いながら話し合う。【10分】
 ☆B 「プライバシーの権利」について、自らの体験を出し合いながら話し合う。【10分】
  C 児童虐待があることを知り、条文と結びつけて問題解決を考える。【10分】
  D ストリートチルドレンの生活の実態を知り、条文と結びつけて問題解決を考える。【10分】
 
子どもの権利条約の授業書
 
 みなさんのことを大切にする「子どもの権利条約」は、1989年の国際連合総会で、すべての国の賛成で決められました。ぜひ、この条約のことをみなさんや大人の人に知ってもらいたいと思います。(友達と意見を交換しながら【問題】を考え、【話】を読みましょう。)
 
【問題1】 日本がこの条約を国会で正式に取り入れたのは、1994年の5月のことでした。世界の国々のなかで、何番目に取り入れたと思いますか。 
 
   ア 5番目  イ 8番目  ウ 15番目  エ 58番目  オ 85番目  カ 158番目
 
【話】なんと、185の国が国際連合に入っていますが、日本がこの条約を自分の国に取り入れたのは、158番目なのです。国際連合に出しているお金は、アメリカについで2番目の国ですが…。 
 
【問題2】 条約では、何歳までを「子ども」というのでしょう。(第1条) 
   ア 13歳未満   イ 14歳未満   ウ 15歳未満   エ 16歳未満   オ 17歳未満
   カ 18歳未満   キ 19歳未満   ク 20歳未満
 
【話】
 カの18歳未満です。( 第1条 「児童とは、18歳未満のすべての者をいう」<政府訳>)
 ・13歳未満:(バスや電車の運ちんでは、中学生以上は大人料金です。)
 ・14歳未満:(悪いことをしても、裁判所には送られません。)
 ・15歳未満:(アルバイトはできません。) 
 ・16歳未満:(今のところ、女子は16歳以上で結婚できます。また、16歳以上になると、バイクの免許をとることができます。義務教育の終わりは15歳です。)
 ・18歳未満:(児童福祉法では18歳未満を児童といいます。パチンコは18歳未満は禁止です。)
 ・20歳未満:(少年法では20歳未満を少年といいます。お酒やたばこは20歳未満は禁止です。また、20歳以上になると、選挙に参加できます。)
 このようにみてくると、何歳までが「子ども」なのか、きまりごとにそれぞれちがいます。これは、「大人の勝手」かもしれません。

【問題3】 子どもにも「意見を言う権利」がある。(第12条)
・子どもは大人(親・教師)の意見に従えと言われたことはありませんか?
・自分の意見を主張したら、「子どものくせに」と言われたことはありませんか?
 
【話】
 みなさんに分からないことがあって困っているとき、大人の人にいろいろと助けてもらうことが必要になってくると思います。そのときに、親切にされるとうれしいですね。助けてもらいたいことと大人の思いどおりにすることとは、違います。
 
  「こどもだって生きている こどもだって考える 悩むこどもだって生きている 
   意見を言わせて ちゃんと聞いて  胸を張って 背筋を伸ばして 恥ずかしがらないで 堂々と
   ヘンなことヘンダ ヤなことヤだ…」(ニュースステーション訳)
 
 (第12条 「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己  の意見を表明する権利を確保する。」<政府訳>)
 
【問題4】 子どもにも「プライバシーの権利」がある(第16条)
・学校で先生に持ち物検査をされたり、家で自分あての手紙を親に読まれたことはありませんか?
 
【話】
 ちょっと前の中学校や高校では、先生が生徒の持ち物検査をすることがありました。学校のきまりを守っているかを調べるためです。すごいところでは、かみの毛やスカートの長さまで、チェックしていました。日本国憲法では国民に自由があるのに…。子どもは、日本の国民ではないみたいです。
 また、お父さんやお母さんがみなさんあての手紙を読んだり、机の中をのぞいたりすることがよくあるようです。いくら親でも、ないしょで子どものことをのぞくのは失礼です。でも、「あなたの部屋があまりにもきたないから、片づけたのよ。」と言われないようにしたいですね。 
 
  「大事にして 大事にして 僕のこと 私のこと 大事にして 大事にして プライバシー
   こどもだって生きている ひとりぶんの命がある のぞかないで 手紙 のぞかないで カバン
   電話のジャマ 持ち物検査 失礼ダゾ グレちゃうぞ」(ニュースステーション訳)
 
 (第16条 「いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され   又は名誉及び信用を不法に攻撃されない」<政府訳>)
 
【問題5】 子どもは親からのいじめはうけない。(第19条)       
・大人から、ことばや暴力によるいじめを受けたことがありませんか?
 
 信じられないことだけど、イギリスや日本などで、言うことを聞かない子どもに対して、暴力をふるう親がふえてきています。なかには、大けがをしたり、命まで失った子どももいます。
 そうでなくても、子どもたちのすこかな成長を願い、子どもたちを支援していくのが大人ではないかと思うのに、子どもを自分の思いどおりにしたい・支配したいという大人がふえてきた気がします。
 
 「あいのむち それはホントに子どものため?」(ニュースステーション訳)
 
 (第19条 「児童は、父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆ  る形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾  取(性的虐待を含む)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置  をとる。」<政府訳>)
【問題6】 家や家庭をなくした子どもは守られる。(第20条)  
・ストリートチルドレンって、どんな子どもたちのことなのか知っていますか?
 
【話】
「ストリート」(英語)は「街の道」、「チルドレン」(英語)は「子どもたち」という意味です。
「ストリートチルドレン」は、「大人の勝手」ですてられた家のない子どもたちです。南アメリカや東南アジアの大都市のスラム(まずしい人が集まる所)に3000万人〜1億人いるといわれています。
 物売りをして、まじめにはたらいて生活している「ストリートチルドレン」もいますが、なかには、残飯あさりやどうぼうをして生活している「ストリートチルドレン」もいます。南アメリカでは、「街の浄化(じょうか)」というかけ声のもと、街の大人たちが「ストリートチルドレン」を銃殺しているそうです。彼らを殺して「ストリートチルドレン」をなくしていくのではなく、「ストリートチルドレン」をつくらない社会にすることの方が大切だと思います。
 
 「子どもを育ててくれる親や親がわりになる人がいないとき、また家庭の中で生活していくことが、子どものし  あわせにならないとわかったときは、国はその子どもを助けて守らなければなりません。」(ニュースステーション訳)
 
 (第20条 「一時的若しくは恒久的にその家庭環境を奪われた児童または児童自身の最善の利益にかんがみその  家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。」
  <政府訳>)
 
参考文献:『子どもの権利条約』テレビ朝日 ニュースステーション