たしざんってなんだ?
 1年生をもったら是非やってみたいと思っていたのが、この「たしざんってなんだ?」という算数の授業だ。
 教科書では「あわせていくつ」として「たし算」が登場してくるが、子どもたちは「たし算」の意味を本当に理解しているのだろうか。一応教科書も使いながら、「たし算」の授業を進めてきたし、文章題を解くときは「6+8=14」というように式に単位を付けさせてきた。しかし、特に「たし算」の意味については触れてこなかった。タイルを使ってそれなりに「量」を理解し、繰り上がりのある演算もでき、子どもたちは「たし算」なんて簡単という気分でいるが、果たして…。
 それを確かめる授業として、1年生の最後を飾る授業として、もう終了式も間近に迫った3月23日に行った。(名古屋算数サークル(数教協)での案をもとにこの授業書を作成した。)
           2時間の授業をリアルに再現
オクイ:今日は、1年生最後の授業です。気合いを入れてやろう。では、始めます。
子どもたち:ハーイ。(14人。Cさん欠席。これで1年生全部。)
オクイ:誰かプリントを読んでくれる人。
K:「いままで、たしざんのけいさんのしかたについて、がくしゅうしてきました。きょうからは、 たしざんのいみについて、かんがえてみたいとおもいます。」
オクイ:そうなんです。さっそく@の問題に入ります。誰か読んで。
H:「@おれたえんぴつが3本、おれていないえんぴつが2本あります。あわせてなん本ありますか。」
オクイ:では、プリントに書いてみてください。(M:なんだ。簡単だがやあ。) …じゃあ、黒板に書いてもらおうかな。ええと、Y君。
Y:3+2=5 、どうですか。
子どもたち:同じでえす。(14人)
オクイ:みんな同じですか。今日は最後まで答は言わないからね。Aへ行くよ。
B:「Aライオンが1とう、しまうまが2とう、おりの中にいます。おりの中には、なんとういますか。」
    (今度も黒板に書いて発表してもらう。)
E:1とう+2とう=3とう、どうですか。(同じです−13人。)
N:違います。たせません。
オクイ:そのわけを教えてくれる。
N:それぞれの檻に入っているから、合わせれないです。
オクイ:檻が二つと考えたわけだね。
K:考えが変わりました。同じ檻にはいると、しまうまが食べられちゃう。だから、たせません。
O:近くでも、けんかをするから、たせません。
A:ううん。困っちゃったなあ。ライオンがおとなしくしていればたせるし、そうじゃないとたせないし…。
オクイ:なるほど。ここで、人数を調べてみようかな。(たせる−3人。たせない−10人。困った人−1人。)話し合いをしているうちに、足せないという人が増えてきたね。続いてBにいってみようか。
S:「Bでんしんばしらが4本立っています。そのよこにクイが3本立っています。みんなでなん本ですか。」
オクイ:今度は…(U:クイってなあに。) クイってねえ、(黒板に絵を描いて)こんなふうに地面にさしてあるものだけど、分かるかな。…では、できた人発表してください。
M:4+3=7です。
A:大きいと小さいとで違うから、たせません。
S:同じ棒なので、たせます。
U:大きさが違うから、区別がついてたせません。
R:電信柱とクイは高さが違うけど、高さは関係ないのでたせます。
O:大きさが違うから、たせるかたせないか、分からなくなりました。
オクイ:また、人数を調べてみようかな。(たせる−2人、たせない−11人、わからない−1人。)
なかなかおもしろくなってきたぞ。誰かCを読んで。
N:「Cオリックスのイチローせんしゅが、ポケットにえんぴつを2本入れて、ホームランを1本うちました。あわせてなん本ですか。」
オクイ:さあ、考えて…。(D:たせるかなあ…。ホームランと鉛筆は、種類が違うからなあ。) D君、かなり悩んでいるねえ。みんなもたっぷり悩んでちょうだい。
…今度は、教室の両側に分かれてもらいます。ええと、「2+1=3」という人は教室の南側へ、「たせない」という     人は北側へ行ってくれるかな。(1人の女の子は1度南側へいくが、メンバーを見て、プリントを直して北側へいく。)
…南の人2人、北の人12人、さあ、今から対決に入ります。南の人、少ないけど頑張って。
H:種類が違うから、たせないと思います。
R:どちらも“本”がつくから、たせる。
M:同じ“本”という漢字だから、たせます。
K:ホームランはバットで打つけど、鉛筆は字を書くからたせないです。
オクイ:あれ、南の人、どうしたの。(R・M:まいった。)あっという間に対決が終わってしまったなあ。じゃあ、Dへ行こう。
F:「Dビルの2かいで、ボールを5かいつきました。あわせてなんかいですか。」
オクイ:みんな考えたかな。これも教室の南と北に分かれてもらうよ。ヨ−イ、ドン。(全員「たせない」の北へ行く。)
これじゃあ、対決にならないなあ。でも、どうしてたせないのか、わけを言ってもらおう。
U:ビルは四角で、ボールは丸だから、違うのでたせません。
R:ビルの2階は2階建の2階で、ボールは5回つくの5回だから、たせないです。
K:2階と5回は仲間じゃないから、たせない。
オクイ:この問題は、みんな「たせない」ということでまとまったようだね。
Y:「Eおとうとは、しゅうじが2きゅうです。にいさんは、しゅうじが1きゅうです。ふたりでなんきゅうですか。」
オクイ:たせますという人、手を挙げて。(14人) みんなたせるというわけね。わけを教えてちょんまげ。
K:同じ仲間だから、たせる。
R:同じ級がつくから、たせます。
A:二つは同じだからです。
D:1級と2級は種類が同じだから、たせます。
オクイ:たせないという人がいないから、その代わりに言うよ。そうするとね。1級+2級=3級ということになるね。このたした答の3級って、どういういみかなあ。…ふつう習字というと、3級と2級とではどっちが上手なのかな。(みんな:2級。) 
では、2級と1級とでは。(みんな:1級。) そうだねえ…。
A:1級や2級はうまいのに、3級だと下手になっちゃう。
子どもたち:たすと、おかしい。
オクイ:ちょっと、ヒントを出し過ぎたかな。 では次。
E:「Fおとうさんは、33さいです。ぼくは、6さいです。ふたりでなんさいですか。」
オクイ:また、手を挙げてもらうよ。たせると思う人、…7人。たせないと思う人、…7人。半々になったねえ。意見を発表してもらおうかな。
H:たすと、39才になってしまうから、たせません。
S:年は年で同じだから、たせます。
B:たした39才は関係ないです。
D:年は種類が同じだから、たせると思います。
N:子どもが39才だとすると、お父さんが0才で赤ちゃんになっちゃう。
U:たせるという人に聞くけど、たした39才ってどういう意味ですか。
オクイ:どうも、たせないという人たちの方がリードしてるみたいね。 いよいよ最後の問題ですぞ。
F:「Gさて、『たしざん』とは、どんなけいさんだとおもいますか。あなたのかんがえをかいてください。」
オクイ:どういうときにたせないと思ったのか、どういうときにたせると思ったのかを書けばいいのです。頑張って話し合ったので、これを書いた人から休憩にしよう。
 子どもたちがどんなことを書いたかというと、
えんぴつとえんぴつはおなじものだから、たせる。でも、としと、としは、おんなじだけどたせません。  (H)
かんけいするのがたせて、かんけいしないのがたせない。(O)(S)
おなじのがたせて、ちがうのがたせない。 (E)(A)
べつべつのものがたせなくて、たかさや大きさがおなじだったら、たせるとおもう。(U)
すうじをかくけいさんで、がっちゃんこをする。 (R)
ふたつがちがうものだったら、たせない。 (D)
ものは、たせます。さいとかきゅうは、たせません。(B)
ものとかおかしは、たせる。(F)
たしざんとは、がっちゃんこするけいさんです。 (Y)(N)
1ばんさいしょにすう字をかいて、+をかいて、つぎにすう字をかきます。(M)
たとえば、白いうさぎ2ひきとちゃいろいうさぎ3びきをあわせて5ひきとか。たせないのは、ライオンとしまうま。(K) 
 これが授業に参加した14人全員の回答である。この感想に休憩時間さっと目を通して、まとめの授業に入った。         
オクイ:では、答を言います。実は、@〜Bの問題はインチキなんです。今まで学んできた文章題とよく似ているけど、何か抜かしてあるんです。(B:そんなあ。オクイのけつたたいてやろ。)暴力反対!
さて、@の問題で考えてみよう。
子どもたち:シ−ン。
オクイ:「あわせて」の前に、何かことばが入らないかな。
K:「えんぴつは」を入れると、鉛筆は鉛筆だから、たせます。
オクイ:その通り。折れても、鉛筆は鉛筆だからね。Aの問題はどうかな。ライオンがおとなしいとたせて、おとなしくないとたせないとA君が言ったけど、何かを入れるとたせます。
M:「なんとういますか」の前に「どうぶつは」を入れるとたせます。
オクイ:ピンポ−ン。二つのものを同じ仲間にしてしまえば、いいわけです。Bの問題も、同じく仲間にできることばはあるかな。
O:電信柱とクイとで。
A:棒みたいなものは。
オクイ:電信柱もクイも“棒みたいなもの”の仲間と言えるね。Cの問題はどうかな。
子どもたち:ホームランと鉛筆はだめだ。
オクイ:そうね。話し合いの中でもあったように、打つものと書くものは全然違うからね。Dはどう。習っていないけど、漢字を使って式を書くとね、2階+5回となるわけ。  
子どもたち:漢字が違う。
オクイ:漢字が違うということは、意味が…
子どもたち:違う。
オクイ:もし、たしても、7かいのかいは、どんな漢字を使えばいいんだろう。だから、C・Dはたすことはできないね。Eは同じ級どうしだけれど、たしてみると3級になって下手になってしまう。たしても、意味がないということだ。Fも同じことで、たした39才って何だろう。この問題の中で、39才の人いるかな。
子どもたち:いない。お化けの年だ。
オクイ:これも、たしても意味がないということだね。「たしざんとはなんだ」を学んできたけど、ひき算でも同じだよ。はい。これで1年生の授業を終わりまあす。
子どもたち:ハ−イ。
        たし算って分かっているようで分かってない
 この授業書では、たし算の合併だとか添加だとかの構造以前の問題を取り上げてみた。特に教科書の指導方針に従うと、立式のときに単位を付けさせない。これは、かけ算という異質なものどうしをかける世界を知る2年生以降に矛盾がおこらないように、かけ算はたし算の簡便算として、累加でかけ算を説明できるように、しくんであるわけだ。
 このように指導されてされてしまうと、かけ算とたし算との世界の違いに気づくどころか、たし算は同質のものを合併するという意識にも欠ける。当然、ひき算とわり算との関係についても同様である。そして、累加と累減がもとになってたし算とかけ算、ひき算とわり算が仲間の演算と勘違いをしてしまうのだ。
 さて、この2時間の授業の流れを振り返ってみると、子どもたちの発言の変化がみられる。初めは何でもたすことができるという子が多かったのが、電信柱とクイ、鉛筆とホームランになってくると、合併するものの異質性に気づいてくる。習字の級になると同質だからたせるのだが、序数の場合は平均する過程での合併以外意味がない。予想通り子どもたちがつまずいた。
 ライオンとしまうまは異質なものだが、それらの上位概念にあたることばがあれば、たすことができる。とまとめのところで、おさえるつもりであったが、1年生の子が気づいてくれるか心配だった。国語で「まとめたことばさがし」をしつこくやったのがよかったのか、意外とすんなり行けた。
 教育現場では、国語や算数といった教科のテストの点を平気でたしているが、テストの点も問題にしたかった。ところが、テストには点をつけていないので、わがクラスでは実情に合わない。今度高学年をもったら、世の中にある“おかしなたし算”を取り上げてみたい。