「ジャパンカップにレガシーワールドが出るんです。行きませんか?」
パソコンによる予想が軌道に乗りかけた時、伸ちゃんが誘ってきた。勿論、東京競馬場にではなく、馬券を買うために中京競馬場へ行こうというのである。
プログラムが出来上がり、まがりなりにも能力指数が出てくるようになって、果たして結果や如何に。ジャパンカップが適用第1号となった。どんな方法で馬券を買うのだろう、初めてのデートのような気分である。
「本当にこのレースは予想が難しいネ。」
伸ちゃんと意見は一致した。本命はレガシーワールドに決定。何の迷いもなかった。しかし、対抗が決まらない。日本馬か?外国馬か?中京競馬場に向かう車の中で、退屈することはなかった。
それにしても、この国道1号線の渋滞は何なんだ! 5km進むのに3時間も要している。聞けば、G1開催日は中京競馬場を中心にどこもこんな調子だそうである。メインレースの締切り時刻が迫ってきている。
僅かに車が進み出した時、急に後頭部を殴られた。一瞬、何事かと伸ちゃんを見ると、彼もこちらを見ている。「えっ!」と思って後を振り返ると、後の車のフロントガラス越しに、泡を食ったような二人の顔が見えた。
大した追突でもない。事故も気になるがジャパンカップも気になる。追突してきたカップルもわざわざ浜松から、ジャパンカップを楽しみに来たらしい。
それならば話は早い。時間がないので事故処理は後回しにし、後部座席にカップルを人質のような形で押し込み、4人で中京競馬場を目指した。
「伸ちゃん、対抗は決まったね。ガシャーンと来たからコタシャーンだよ。」 冗談で言ったのに伸ちゃんは乗ってきた。かくして締切りにはギリギリに間に合った。
1993年11月28日 東京第10レース 馬連 7-8 配当 3,400 円
少し首は痛むが、人生最良の日ではないかと思えた。浜松のカップルは別の馬の名前を言っていたので、外したに違いない。彼らにとって最悪の日になったのだろう。