初めての万馬券

 すっかり競馬に嵌まり込み、1人で馬券を買いに行くことも多くなった。前々週に27万馬券が飛び出し、2匹目のドジョウを期待していた。

 「あ〜ア、今日も1レースも獲れないなあ。」 

日曜日の昼過ぎに、ウインズの片隅で溜息混じりのボヤキが出た。

 パソコンの予想どおりに買っても当たらない。自分の勘ピュータを働かせればパソコンの予想どおりに来る。悪循環とはこの事を言うのだろう。不貞腐れて寝ることに決めた。

 財布の中に電車賃1,000円を残し、新潟メインレースにパソコンを信じて馬連9-11に5,000円を注ぎ込み、馬券1枚を握り締めて帰ることにした。

 自宅に帰り着き、テレビのスイッチを入れたとたん、丁度メインレースの結果が浮かび上がる。配当に真っ先に眼が行った。

 見慣れない高額の配当である。着順を見ると記憶に残る数字がそこに並んでいた。急いで財布から取り出した馬券と何度も見比べるが間違いなく的中している。震える手で受話器を取り上げた。

 「伸ちゃん、万馬券当てちゃったよ。新潟メインレースで。」

 「いくら入れてたの?」

 「5,000円。20万円も儲かっちゃったよ。」

 「何言ってんの!。1桁違うんじゃないのぉ。」

 「えっ・・エッ・・・・!?。」

 最高の払戻しが数万円の経験しかない頭の中は暗算が出来ずパニックに陥った。

 1994年8月7日 関屋記念 馬連 9-11 配当 41,630円

 今でもそうであるが、パソコンから出てくる馬番のみで馬券を買うため馬の名前は殆ど覚えていない。

 マイスーパーマンとシスティーナ。私に最初の万馬券をプレゼントしてくれた、この2頭の名前だけは忘れない。