知られざる世界 脳について
編集・管理人: 本 田 哲 康(苦縁讃) 
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 LINK  脳:人間関係・分裂症  LINK 脳:男と女
 
記憶について、
 自分探しの、そして”こころ”の実態を探るのが、このホ−ムページの主眼とするところである。
 そこで、ここでは生物学的に「脳」を考えてみた。
 『私はねぇ!』と言うときに、その人は自分の胸を手のひらで押さえたり、または、鼻を指さしながら、そこに自分があるかの様に、動作することが多い。
 『私』は、胸に在り、『自分』は、頭に在るのであろうか?  
 『私』・『自分』は、いったい何処にあるのであろうか? ???
 このことは、哲学的には大変に深い複雑な問題であるのだ!

 多くの『私』が存在し、『自分』がひしめき合って、人間社会を形成している。求めるモノは、皆、微妙に異なっているが、間違いなく言い切れる結論は、皆、『幸せ』の瞬間を求め、それを維持させようとしていることは共通した事実である。これは、生物の中で、人間のみの特徴で在るともいえる。
 さて、例によってNHKの番組を参考にまとめてみた。 「この知られざる脳の世界  ザ・ブレイン」を、かいつまんでまとめてみた。5回のシリーズであったが、ここでは、その内の三回分をまとめてみた。  
 以下の五か国共同制作(NHK,WNET(アメリカ)、アンテナ2(フランス)ケベックTV(カナダ)、カステルプロ(イスラエル)の番組であったことをお断りしておく。 
 


1 脳はこうして記憶する
 ◎ 2分間で、34桁の数字を記憶する人がいる。
  果たして、脳の何処でどのように記憶が行われているのであろうか?

 (1) 記憶の場所はどこか?
 ◇ 「東京都神経科学総合研究所」では、猿を使って次のような実験が行われた。
 檻に入った猿の前のに、二つの 凹穴を創り、一方に干しぶどうを入れる。
 このときに干しぶどうの入った穴の上には×印の厚い紙を、入れない穴の上には ○ の厚紙を置いて下の穴が見えないようにする。
 試行錯誤で、やがて猿は×印の上の下には干しブドウがあることを記憶するようになった。
 「×の下には干しぶどうがある。」と、事前によく記憶させておいた。
 この猿の脳から、記憶に関係すると思われる部分をほんの一部除去する手術を行った。
 その後、手術が回復した2週間の後に、同じ実験を再開した。
 すると、この猿は以前のように干しぶどうが×印の厚紙の下にあると言うことを、何度繰り返しても記憶することができなかった。
 記憶には、脳のどこの部分が関係するのか?・・・この研究には長い道のりがあった。



 ◇ カール・ラシュレー博士の実験(およそ70年前)ネズミを使って実験
 迷路を使って、各種の実験が行われた。
 何度も繰り返して、迷路を走るネズミのゴールに到達する実験が行われた。
 ネズミが迷路を覚えた頃、脳のいろいろな部分を切除して、その影響を観察した。
 その後の影響を繰り返し調べた結果、意外な結果を得た。
 記憶は、脳のどこを切除するかではなく、切除する割合が問題であったのである。
 「脳の切除が脳の5分の一以下ならば、記憶力を失わない。」との結果を得た。
 そして、カール・ラシュレーは、『記憶は脳全体で、まんべんなく蓄えられる』と報告した。


 ◇ その後、1949年にペン・フィールド博士は、記憶は側頭葉で行われていると報告。
 人体による実験で、次のような結果を得た。
 手術は、患者を必要以上に傷つけないように配慮して、脳のあちらこちらを刺激して確かめながら行われた。
 このとき、脳の上の方を刺激すると、患者の女性は「腕がヒリヒリする。」と訴えた。そして、偶然、患者の脳の左下にある側頭葉を刺激すると、「かつて聞いたことのある音楽を思い出した。」と伝えた。
 『あなたの脳を何カ所か刺激しましたが、痛みはありましたか?』 ・・・「いいえ」
 『脳の左の下の部分を刺激したとき、あなたは音楽が聞こえると言いました。
 繰り返すと、また、音楽が聞こえると言いました。これには驚きました。』・・・「オーケストラの演奏のようでした。どこから聞こえてくるか解りませんでした。題名は思い出せませんでした。」
 『どのような音楽でしたか?』・・・・ 彼女はメロディーを口ずさんだ。
 このことから、博士は、記憶は側頭葉に蓄えられると結論づけた。
               
☆ 補足 ☆作家:立花 隆氏の「立花 隆リポート 臨死体験-人は死ぬ時何を見るのか - 」
            の取材報告によると・・・・
                                     
Link  体外離脱のこと
                        
 さて、この報告の中で、彼はこのワイルダー・ペンフィールド博士の研究と彼の報告も述べて、それについて説明していた。元々はテンカンの原因究明が目的の実験であったが、この結果は多くの画期的な発見に結びついたのであった。
 彼は幻覚を起こす部分が側頭葉に集中していることを発見したのであった。
 この時の記録を観ると、この部分を刺激すると身体が自分から抜け出して、周りから自分を観ているようだと報告していることが記録されているのであった。同じ”シリビウス裂”の他の部分を刺激すると、患者は『神を観た!』と報告しているのであった。
 記録には、更に、近くの他の部分を刺激すると、今度は、「天国の音楽のようなものが聞こえる。」と、また、別な部分では、患者は「死んだ家族と出会った。」述べている。
 メルビン・モース小児科医に、立花氏が問うた。
 『それでは、側頭葉で、臨死体験のすべてが説明可能ですか?』。
 それに、かれはこう答えた。
 『ただ、たった一つ説明できないのは、体外離脱した時に回りを見ているのは魂なのかそれとも脳のなにかの機能なのか?という問題なのです。側頭葉だけでおきるとは言い切れません。しかし、側頭葉と連動しておきるとは言い切れるのです。魂があるとすれば、側頭葉は魂と肉体を結びつけている所・魂が肉体から離れる時のスウィッチと言えるかもしれません。
 私はまだ魂を信じていませんが、何故人間が死ぬ時に対外離脱がプログラムされているか?
 進化論の立場からすれば、死の直前だけに働く脳の機能があること自体不思議です。それが働いても、人間にはすべてが終わる”死”が待っているのです。
 死の直前にのみ働く機能があることが不思議です。』と、しばらく考えてから答えた。
 立花氏は、東大医学部で『幻覚・夢』を観ている時の脳の状況を最新機器によって調べることにした。REM睡眠中・いわゆる『夢』を観ている時が、通常の生活時と比較すると、一番血流が多いことは判明した。昏睡状態で視線をさまよっている時の脳の状態は、血流は殆ど無しに等しかった。まるで反対の状況であることが分かった。
 しかし、科学では決着が付けられない。
 さて、ワイルダー・ペンフィールド博士は、往年『精神活動はすべて脳によって説明できる時が来る。』と述べていた。しかし、晩年、彼は自分お考えを翻した。すなわち『人間の精神活動は、脳では説明しきれない。』と、結論を下したのである。脳とは別に精神活動を司る所があるはずだという考えに至ったのである。彼の庭の石に描かれた図式には、”精神”=”脳” と、描かれていた。
 しかし、彼の死の二年前にその絵は書き換えられた。
精神”と”脳”との間の「=」が消されて、脳の絵の中に?が書き加えられた。彼の死後およそ25年、未だ脳に関する結論は得られていない。

                         
 しかし、・・・

◇ ドナルド・ヘブ博士(カナダ・生理心理学者)は、上記二人と共に研究したことがある。 脳神経学の第一人者である。彼は、次のようにいう。「二人の研究は間違っては居ませんが正しいとも言えません。」と、・・・。
 彼は、研究を更に発展させた。彼は、記憶の科学で、今なお、世界的に有名な博士である。
 ○ 記憶とは、外からの刺激で作られる脳の神経回路である。・・・と考えた。
   ペンフィールドの言うように、側頭葉も重要な働きをするが、
   一方、ラシュレーの言うように、脳全体が記憶に関与している。・・・・と言うのである。
 ”記憶には、脳全体が関係している。ものを見てその情報が脳に届くと、見たものに相当する神経回路が興奮する。次のこの興奮が言葉に関する別の神経回路に伝わっていく。これで言葉となって出てくるのだ。脳は全体で分業している。
 それぞれの場所の記憶の神経回路が必要に応じて働くのである。”
 ”脳はその各部が分業して必要に応じて働いているようである。幼児は、言葉が話せるようになるまでに、実に沢山のことを学んでいる。それは聴覚・皮膚感覚など・・・・、外の世界からの刺激で、作られていく神経回路の発達によるもである。
 この神経回路の発達は、生後5歳までにめざましい勢いで作られていくものである。”

  
子供の遊びを通じて、神経回路は作られていくのである。
 
 ◇ ICの記憶回路を組み込んだ「迷路ロボット(マイクロマウス」)」
 かつて行われた「科学万博」で、ICの記憶回路を組み込んだ「迷路ロボット(マイクロマウス」)」による、迷路を走る実験を行った。
 迷路の前方に進むことができないときには、方向転換する。左右のいずれかに道が開かれていたらそこを前進する。・・・。
 ロボットは、一度コースを記憶すると、自力で最短距離でゴールに到達する。一度覚えたら、もう試行錯誤の必要はない。ICの脳には、外から刺激を与えても新しい回路を造ることはできない。
 
◎ だが、この記憶は、ハードな記憶である。

 外から刺激しても変化して成長はしない。

 人や動物の記憶は、ソフトな記憶回路と言うことになる。脳は、学習・体験によって作られていくのである。
 
◇ 猫による新しい回路の実験:大阪大学基礎工学部生物工学科 塚原仲晃:神経生理学者
 ここでは、学習や経験で新しい神経回路が作られる仕組みを調べている。
 猫の脳と前足に電極が付けてある。猫を実験台に固定させて、2カ所に電気的な刺激を与える装置をセットする。外からの刺激として電気信号が送られる。前足が動くとそれが記録される。
 電気信号は、まず、脳に、その直後に前足にくる。
 一カ所は任意の場所A。A電気的な刺激をに送ると、外見上はまばたきし耳が動くのみである。腕は動かない。
 もう一カ所の電気刺激は、腕を動かす脳の場所Bである。この装置で、一週間刺激を繰り返す。
一週間後、今度は脳細胞にだけ刺激を与える。すると、前足が動いた。前足に刺激が来ないのに前足を曲げるようになったのである。
 一週間、刺激を繰り返すことによって、今まで繋がっていなかった細胞の間に新しい神経回路ができたのである。
 この実験で、外からの刺激、つまり学習や経験で変わりうると言うことが解ったのである。

 Aのみに電気刺激を送ると、腕が動くようになった。
 一週間刺激を繰り返すことによって、脳細胞が相互間で結びあったのである。更に刺激を強くすると、細胞から新しい繋がりが増えていくことを認めた。
 これを「発芽」という。同じ強さの刺激でも反応は強くなる。同じ強さの刺激でも反応は強くなる。

 ◎ 記憶回路の成長の様子が実験により証明されたのである。
  成長は若いときほどめざましい速度である(塚原仲晃 大阪大学教授・神経生理学)。
  学習能力が高い。
  脳には100億個以上の細胞があると言われている。この細胞が一つずつそれぞれに1億の回路を持っている。
  これらの回路を結んだとすれば、100兆の回路(シナプス)ができると言うことである。
  これらの回路が外からの刺激で造られるとすれば、刺激の種類・与え方が重要であるといえる。
  適齢期にそれが行われる必要がある。若いときほど、それは効果的である。

 ところで、脳に神経回路が作られるときに作用するある種の化学物質が発見されている。
 ◇ クリス・アンダーソン博士(フランス・パリ:「パスツール研究所」神経生理学者)
鶏卵のを使い、神経回路の発達を促す物質を追求している。
神経細胞を培養して、神経系の枝の伸びる状態を調べ、発達を促す実験を行った。筋肉から出る神経回路の発達を促す物質を加えてやると、一日も経たないうちに枝が出てくることを認めた。
中央の写真の丸い細胞は枝の出る前のものである。
 これによって神経回路の発達には筋肉から出る物質が関係していることが解る。
 神経回路の発達を促す要因は他にもある。
 卵の中の胚は時々ふるえるように動きます。卵がかえるまで、、殆ど全期間収縮運動がある。
 おなかの赤ちゃんと同じである。
 化学物質のみでなく、運動も神経回路の発達に深く関わっているとも言える。
 ◇ ジェイソン・ビーン・ホルツ(アメリカ超音波診断)
 確かに胎児は、おなかの中でいろいろな動きをしています。
 妊娠4〜5ヶ月となると、生まれたばかりの新生児の運動と大差がありません。
 目と口が動いて周りを確かめて成長している。  

 また、
◇ ジーン・ピエール・シャニュー博士(フランス・神経生理学)は、
 NGFと言う物質は、幼児の中には沢山あるが大人には殆ど見られない。
 このNGF(神経成長因子=幼児の脳に多く存在する)を、40万分の一に希釈して、神経細胞培養中のシャーレに添加して、効果を確かめた。
 神経回路は、外からの刺激を受けてこうした物質の助けを受けて成長していくのである。
 NGFを加えないシャーレでは、神経細胞に殆ど変化が見られなかった。
 化学物質だけでなく、運動も神経の発達に深く関わっていると思われる。
 また、NGFと似た物質は他にも見つかっている。
しかし、これらは脳を良くする薬になるであろうか?その答えはまだ否定的である。
 答えは、まだ、否定的だ。
 食べ物の中にあるタンパク質のドーパミンは、これらの化学物質の材料になるので大変に重要だが、一般的には「頭を良くする薬」というものはまだ無いようである。
 ビタミンBが不足すると脳の記憶回路が破壊されると言われている。アルコール中毒による栄養失調には関係がある。
NGFを加えないシャーレ NGFを加えたシャーレの細胞は活発に成長

◎ 記憶に重要な働きをする海馬について
海馬は、側頭葉の中にあり、タツノオトシゴの形をしているのでそう呼ばれている。
記憶の中でも、喜怒哀楽の伴う記憶は、はっきりと残ります。

 それは海馬の近くにある感情を司る脳の部分があるためです。

 記憶する、そして思い出す。そのどちらにも海馬は深く関わっている。

◇ ニール・コーエン(アメリカ・神経心理学)
損傷を受けると、すべての記憶を失うわけではない。記憶喪失症であると言うことは、外見的には解らない。比較的新しい記憶のその一部を失ってしまうのである。
 しかし、他の知識を総動員してその失った記憶を補おうとする。
 損傷を受けた患者は、
 例えば、写真を見て、アメリカの大統領と言うことは解るが、名前が正確に出てこない。関連した記憶情報を辿って、やっと思い出すことができる。
   情報 →  海馬 → 脳の各部に送り込む。

 海馬は、関所の役割をもっているわけで、海馬そのものが記憶をするわけではないのである。 記憶するときと、思い出すときの関門である。

◇ アンデルス・ビヨルクルント(スウェーデン・ルント大学神経生理学)・・ネズミの実験
 歳を取ると記憶が悪くなる。その原因は海馬にあると考えている学者の一人である。
水中に見えない丘を作って、この中でネズミを泳がす。ネズミは、しばらく泳ぎながら水面には現れていない丘を捜し当てて、ここの場所を記憶する。
 次第に、泳ぐと短時間ですぐに丘に向かって泳ぐようになる。
 若いネズミほど速く場所を記憶することができる。年取ったネズミは、何回繰り返してもなかなか覚えられない。
そこで、若いネズミの海馬を移植し、一週間後、確かめると記憶が良くなっていた。

◎ 老化と海馬の関係は、これからの課題である。
記憶とは、4〜5歳に始まり、やがて記憶力は衰えていく。
若い頃覚えたことは忘れにくい。人間は80歳を過ぎた頃から脳細胞が急激に減少する。
老齢になるに従って、脳は悪くなるのであろうか?
しかし、脳細胞は、老人になっても刺激に応じて伸びる力がある。  

◇ 福田 潤助教授(当時):東大医学部は、脳細胞の培養に成功した。
 培養の結果、老人になっても脳細胞は神経回路を作り続けることが解った。このことは、歳を取っても新しいことを学ぶ力を持っているという証拠である。
 老人の脳細胞を観察した結果、老人になっても、脳細胞は神経回路を作り続けていた。
◎ 大脳の脳細胞はおよそ140億と言われている。
 しかし、脳は、20歳以降は1年に1gづつ減少している。

 これは、脳が軽くなることと俗に言う「頭が悪く」なることとは関係しない。 人間は歳を取り人生経験を踏むほど、だんだんと合理的になる。

 必要のない回路を整理されるだけである。
◇ ドナルド・ヘブ(カナダ生理心理学者当時81歳)はいう。まだまだ研究心旺盛。
「歳を取るほど脳細胞は減少するが、しかし、聡明になっていく。それを考えると、脳細胞が減っていくと言うことは、実に奇妙なことに思われる。」 歳を取るほどに脳細胞を効率的に使うようになる。
  普通、5歳以前の記憶はほとんど無いものである。

 しかし、記憶にはないが、この間の経験はその後の神経回路を作る基礎となるのである。

◎ 生まれたときには、脳は白紙のようなものである。
        ・・しかし、その後どのような絵を描くかと言うことが問題となる。
『天才とは、すぐれた神経回路をもった人のことである。』決して、脳が大きくて重いわけではない。
LINK    記憶に関連:Glia細胞(2010年〜2008年の発見)