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脳神経の軸索の周りにあるソーセージのような形のものが、グリア細胞である。
外にも、異なる種類のグリア細胞がある。
赤く示してあるのが、そのグリア細胞。
これはまさに神経細胞にくっついて、神経細胞を支えたり、神経細胞に栄養を与える働きがあると考えられていたグリア細胞だった。 |
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山梨大学 医学部付属病院 ・・・ここでは、グリア細胞の機能を探る研究がされている。小泉修一教授(医学部薬理学講座)は、ここ10年の間、グリア細胞と神経細胞の関係に注目している。 |
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一つのグリア細胞に刺激を与えると、中心から興奮が伝わっていくことが判明した。
神経細胞と同じように、興奮することが出来て、情報を周りの細胞に伝えることが出来る、ということが解ったのだ。 |
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グリア細胞と、神経細胞はお互いにどのように関わり合っているのだろうか? |
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培養して実験を行った。
神経細胞は突起を出している。周辺にあるグリア細胞は、突起を出さず、興奮するとグリア細胞同士に連絡を行う。
薬品を用いて、グリア細胞の活動を止めてみた。
すると、神経細胞が激しく活動をはじめた。
グリア細胞は、神経細胞の興奮を抑え、安定した働きを保つという働きを持っていたのだ。
裏方だと思われていたが、神経細胞とコミュニケーションをして脳の機能を維持していることが判明した。
「神経細胞は、電気的伝導。グリア細胞は物質を出して伝導をはかる。物質だけを出して広範囲でにで遅い反応を行っている。」とのこと。
影の主役:グリア細胞。 |
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岡部繁男教授 東京大学医学部 は、 |
最新の顕微鏡を使って観察。緑色のものが神経細胞、赤く見えるものがグリア細胞。 |
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最新の顕微鏡を使って観察。緑色のものが神経細胞、赤く見えるものがグリア細胞。グリア細胞は、神経細胞に向けて沢山の腕を伸ばしている。このグリア細胞が神経細胞の突起と絡み合っているところが多く発見された。 |
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この突起は「スパイン」と呼ばれている。脳の中では神経細胞が複雑な経路を造り、電気信号によってやりとりをしている。「記憶」は電気信号の経路が新たに造り出されることによって生まれることが解っている。その経路を決めるのが、神経細胞の接点にある、「シナプス」である。ここで信号のやりとりをする。信号を受け取る側の突起が「スパイン」である。
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グリア細胞は、「スパイン」にからみつくような格好で、一体何をしているのだろうか? |
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「スパイン」の時間変化を観察した結果、画面にははじめ二本の「スパイン」が在った。 |
しかし、時間と共にその姿を変え、二時間後に右側の「スパイン」がグリア細胞と接触した。 |
左側のそれにはグリア細胞が近づいていないために、五時間後完全に消失した。 |
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グリア細胞が存在しない場合、「スパイン」は長時間安定して存在し得ないことが解った。
グリア細胞は、神経細胞に単に絡み合っているだけではなく、「スパイン」の成長を促し記憶の形成にまでかかわっていることが考えられる。
グリア細胞の接触が強いものほど、「シナプス」は成熟し安定化することが解った。
「グリア細胞が人の記憶や学習等、脳の非常に重要な部分をコントロールしている。」という。人の顔を覚えるとか、なにか新しいことを学習するとか、そういうのは本質的には神経の繋がり方が強化されて記憶することが出来るわけで、これらグリア細胞の作業は、記憶そのものにかかわっていると言えよう。
物事を忘れてしまうのも、グリア細胞と関係性があるのだろうか?
まだ、この点については検証されていないが、関連性がありそうである。 |
グリア細胞と脳神経の比率は動物によって異なる。 |
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ヒト は グリア細胞が1.8倍存在する
(個人差がある)
ネズミは 0.4倍
猫 1.4倍
鯨は 6倍 |
一般に、高等動物ほどグリア細胞の比率が大きい。
今より20年前に、アインシュタインのグリア細胞比率を調べた科学者がいた。(1950年代〜1980年代にかけてグリア細胞比率は多く調べられた。)
その結果、通常のヒトよりもグリア細胞が飛び抜けて多かったと報告されている。
(しかし、この時代にはまだグリア細胞は現在ほど重要視されてはいなかった。) |
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九州大学 薬学部 井上和秀教授 は、ミクログリアの第一人者である。
神経細胞は、病気やけがなどでダメージを受けると、SOS信号を出すことが知られている。その信号をいち早くキャッチし、神経細胞に近づいていく細胞がある。これは、グリア細胞の一種で、「ミクログリア」と呼ばれている。これが、神経細胞に近づいたときに、どのような振る舞いをするのかを調べている。
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普段の「ミクログリア」は突起を長くのばした状態で存在している。SOS信号を受け取って活性化した「ミクログリア」は突起を縮めた形に姿を変える。 |
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写真は、活性化したときの、盛んに突起を動かしている「ミクログリア」である。 |
無数の突起をのばしネットワークが作られている、脳の神経細胞に、脳のストレスに相当する溶液を加えてみる。 |
二時間後、脳神経のネットワークは破壊されて、ほとんどの脳細胞は死滅してしまい、9%しか生き残らなかった。 |
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つぎに、ストレスに相当する溶液に、「ミトログリア」の分泌する物質を加えて、脳神経回路に添加してみた。
すると神経細胞の71%が生き残ったのだ。
そこで、ミクログリアは神経細胞を守る働きを持っていることが考えられるのである。 |
「ミクログリアは、突起を出して神経内を探知している。
一端、ことが起これば物質を出して神経細胞を監視して守ろうとしている。」
しかし、脳神経に大きすぎるダメージが与えられると、SOS信号ではなく、Give up信号が脳神経から発せられる。
このGive up信号に値する物質を、ミクログリアに添加してみた。
すると、障害を受けた神経細胞を殺して食べてしまう。何処でそのような逆の働きをするのかが、いまだに解っていない。
死滅した細胞が脳の中にいると、脳内に炎症を起こす。それを防ぐために、掃除をするのであろう。
しかし、障害を受けていない脳細胞を食べてしまうのかもしれない。 |
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3 アルツハイマー病に挑む |
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アルツハイマー病になると、顕著な異常の現れる場所がある。
それは、記憶を司っている海馬である。ここにアミロイドが増加するのだ。
褐色斑点のある写真はアルツハイマー病を発症した海馬である。
タンパク質のゴミ”アミロイド”だ。
これが蓄積することで脳の組織を破壊することで障害が起こると考えられている。 |
放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 樋口真人(まこと) チームリーダー
彼は、アルツハイマー病の進行とミクログリアの活性化との関係を調査中だ。 |
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ミクログリアは、このアミロイドを食べてくれると考えられている。MRIでは、識別不可能であるが、最新の装置・PETならば、これが識別可能である。PETによるβ-アミロイド検出は、アルツハイマー病の予兆が、識別可能である。β-アミロイドは、早期発見の目印となっている。(東京都老人総合研究所 付属診療所 石井憲二所長(2008年4月) |
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アルツハイマー病発症3ヶ月の脳には、海馬の周辺のグリーンの部分が広がって、ミクログリアが活性化していることが解る。 |
アルツハイマー病になっていない健康なマウスの脳は、全体がブルーでミクログリアが活性化していない。 |
9ヶ月後の写真→海馬が萎縮。残った海馬が黄色や赤に変化し、ミクログリアが過剰に活性化していることが判明。 |
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ミクログリアの過剰な活性化が、正常な神経細胞を攻撃して、アルツハイマー病の進行を加速しているのではないかと考えられた。
樋口氏は、アルツハイマー病のマウスにミクログリアの活性を抑える薬・免疫抑制剤を与えて、海馬の萎縮がどれくらい抑えられるのか調査してみた。 |
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アルツハイマー病に罹って一年後のマウスは、海馬が半分に萎縮していた。 |
薬を飲んだマウスは、萎縮はほとんど起こっていなかった。萎縮が抑えられていた。
アルツハイマー病の進行を抑える可能性を示した。 |
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しかし、ここで使用した免疫抑制剤をヒトの患者に投与することは、いまだに多くの困難がある。安全性の高い状態で、ミクログリアのような免疫を制御できれば、アルツハイマー病を根本的に治療できると見込まれている。
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グリアは、これ以外にも医学的に関わりを持っている。
例えば、怪我の後直ってから、触るだけで猛烈な痛みを覚える「神経因性疼痛(とうつう)」は、ミクログリアの仕業であることが解ってきて、治療の方法にも兆しが見えてきた。その他、「統合失調症」「鬱病」等も、ひょっとすると、グリア細胞の影響によるのではないか?と考えられてきた。今まで、神経の病気は、皆、ニューロンの病気と決めつけられてきたが、グリア細胞の側から眺めると、もっといろいろなことが判明できるのではないか?と思われる。:工藤氏 |
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生体実験の不可能な分野は、コンピュータを使ったシミュレーションを活用して、未知の分野の解明が期待できそうである。 |
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