11月22日(日)小学校生活最後の学芸会でした。今年の出し物は劇「広瀬城の夕陽」です。戦国時代に若き日の徳川家康に攻めほろぼされた三宅氏を扱った自作台本の劇で、この三宅氏が城を構えたのが学区の広瀬城址なのです。ちなみに、6年生の崇義君は、その三宅の殿様の子孫です。

ここに台本を公開します。最後までお楽しみください。

平成10年度 6年生 劇

「広瀬城の夕陽」

配役

三宅高清

息子

家老(じい)

農民(喜助)

喜助の妻

喜助の娘

織田信長

木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)

松平元康(後の徳川家康)

佐久間信盛

家来1・2・3・4・5・6

広済寺の僧

農民1・2

鉄砲商人

元康の家来 服部


場面1  村の田んぼ沿い(舞台下)

 

農民1 よい天気が続くなあ。今年も米がこんなにとれて。おてんとさまのおかげだわ。

喜助  ちょっと前は、いつもいつも戦じゃ戦じゃっちゅうて、ろくに田んぼの仕事もで

    きんかったのになあ。ほんに、ありがたいことで。

農民1 おりさちゃんも手伝いか。まだ小さいのによく働くのう。

喜助の娘 うん。おら。おっ父、大好きだから。おっ父の手伝いいっぱいするんだ。

農民1 うんうん。よい子じゃ。

農民2 (上手より登場)

    おーい、おやかた様じゃ。おやかた様が来られるぞ。

農民1 おや、まあ。おやかた様だと。

喜助  おやかた様がお越しとは、何か用でもおありなのかな。

農民2 いやいや。今日は見まわりだけのようじゃ。

喜助  今年は米がたくさんとれたで、おやかた様もお喜びじゃ。

農民1 そうそう、よい米がとれるのも戦がないおかげじゃ。

農民2 松平何とかっちゅう殿様がここしばらく攻めてこないからな。。

喜助  戦になったら田んぼをほっといてでもわしら出かけにゃならんからな。

農民1 (しーという動作)

三宅  (上手より登場、家来二人が供としてつく)

    皆の衆、息災かの。

喜助の娘 あ、おやかた様。

三宅  オー。お手伝いか、よい子じゃ。この子はだれの子じゃな。

喜助  私の娘でございます。

三宅  喜助、その方の娘か。いくつになる。

喜助の娘 五つでございます。

三宅  返事も立派にできるのう。さて、今年の米のできはいかがかな。

農民2 おかげさまで、こんなによく実って。

農民1 これもここしばらく、戦がないおかげです。ありがとうございます。

三宅  うん。そうか。これからもがんばられよ。

農民2 はい、ありがとうございます。

喜助  おやかた様、おいしいお米をそのうちに持っていきますでな。

    (殿様、家来下手に下がる)


場面2

舞台幕を開く

舞台上 家来が並ぶ中、おやかた様下手より登場。

 

家来1 おやかた様、どうなさいます。どちらを選ばれるつもりでございますか。

家来2 どちらを選ばれるとはどういうことじゃ。

家来1 実は…。

じい  実はな。今、われらの三河武士団はご先祖の児島高徳公以降、この地にしっかり

    根をはってきた。尾張の織田、三河の松平いずれにも組せず、その勇猛ぶりは天

    下にとどろいておる。

家来1 しかし、国中が戦に明け暮れるこの世の中で、甲斐の武田、越後の

    上杉、越前の朝倉がそれぞれ力を蓄え、天下に号令しようとしている。

じい  そこで、われらはどうすべきか。

家来2 どうするのでございますか。

家来3 戦でございますか。

家来4 うん。戦じゃ。

じい  まあ、慌てるな。矢作川をはさんで、西広瀬には織田の重臣、佐久間信盛殿の城

    がある。つまり、尾張じゃ。三河の松平はかつて今川義元の味方をし、これまで

    われらに繰り返し戦いを挑んできた。

三宅  じい。(じいを制して)

三宅  尾張の織田と三河の松平は敵同士だ。その間で何もせずにいるわけには行かなく

    なってきた。織田に味方するか、それとも松平の下につくか。

じい  織田につけば、織田の軍勢の先鋒となり、松平と雌雄を決することになる。松平

    の方についた場合も、同じことじゃ。

家来5 われらはどうすればよいのでしょう。

家来1 どちらについても戦になりますな。

じい  うん。

家来3 おやかた様、われらはこれまで何度も松平と戦ってまいりました。そのたびにあ

    の松平の軍勢を切り切り舞いさせてやったではないですか。今回もうまく参りま

    しょう。

家来6 そううまくは参りますまい。織田と松平の間でわれらはどちらを選んでも戦わな

    ければなりますまい。

三宅  じい。(まわりを見まわしながら)

三宅  意を決したぞ。

三宅  これまで松平と戦ってきた。その軍門に下るのは、武門の名折れじゃ。われらは、

    織田に組することとする。


場面3

 

舞台下

喜助の家、喜助の娘は横に寝ている。

喜助  どうやら戦になりそうな気配じゃ。

喜助の妻 お城でみなさんが話し合われたそうですね。

喜助  うん。(声もなく)

喜助の妻 しばらく戦がなくてみんな喜んでおりましたのに。

喜助  松平の軍勢が押し寄せてくるそうじゃ。

喜助の妻 岡崎城からまた来るんですか。

喜助 ああ。よっぽどこの広瀬というところを手に入れたいとみえる。

喜助の妻 そうですわね。

喜助  わしらの住んでいる広瀬というところは、向こうは尾張、こちらが三河だからな

    あ。

喜助の妻 また、たくさんの方が亡くなられるのでしょうか。

喜助  ああ、そうかもしれんな。わしら百姓は、足軽じゃ。命令されるように動くだけ

    だでな。

喜助の妻 そんな。もし、あなたが亡くなられたらどうすればいいんですか。

喜助  (無言で作業を続ける)

喜助の娘 (起きる)お父。今の話、本当なの。戦に行っちゃうの?

喜助の妻 おりさ、今の話を聞いていたのかい。

喜助の娘 うん。

喜助の妻 まあ、この子ったら。

喜助  仕方がないな。どれ、おりさ。お父は戦に行っても死なないから大丈夫だよ。

喜助の娘 うそだ。行っちゃいやだよう。

喜助  大丈夫、大丈夫。ささ、もう寝な。

喜助  (子守唄を歌ってやる)

 

場面4清州城内

 佐久間信盛 その下に三宅の殿様と家来1

佐久間 三宅殿、遠路はるばる清州の城までよくお越しくださった。

三宅  三宅高清にございます。

信長、木下藤吉郎を従えて入場、一同土下座をする。

佐久間 殿、三河の国、広瀬城主、三宅様にございます。

信長  三宅殿、面を上げられよ。よくお越しくだされた。

三宅  三宅高清にございます。

信長  佐久間、仔細を申せ。

佐久間 は。三宅殿をはじめ広瀬、梅ヶ坪、挙母の三つの城の三宅氏は、三河武士団とし

    て天下にその名がとどろいております。三宅殿は、矢作川をはさんで私の城と接

    するところにあります。これまで三河の松平元康殿とたびたび戦をしてこられま

    した。このたび、いよいよ意を決せられ、われわれ織田の軍勢に組したいと申さ

    れております。

信長  三宅殿、誤りはないかの。

三宅  すべて佐久間殿の申された通りでございます。

信長  三宅殿、桶狭間で今川に勝ったとはいえ、まだまだ余裕がない。三宅殿火急の時

    にこの信長の軍勢が間に合わぬことも考えられるが、それでもよろしいかな。

三宅  もとより承知の上でございます。

佐久間 殿、三宅殿はじめ勇猛で鳴らした三河武士団の面々、必死の覚悟でございますぞ。

信長  これは頼もしいことじゃ。三宅殿、清州の城にてゆっくりされるがよい。

三宅  とってかえして、戦の準備いたしまする。

信長、三宅の言葉を聞きながら退場。

木下  木下藤吉郎と申します。三宅様、信長様は上機嫌のご様子。よろしゅうございま

    すな。

佐久間 こら、猿。出すぎたまねをするではない。

木下  はは。これは申し訳ございません。


場面5 伊勢の市 鉄砲商人の店 

高清の息子、じいと家来2

家来2 (鉄砲を手にしながら)これはなかなかの鉄砲でございますぞ。

息子  うん。これなら松平の軍勢も驚くだろう。

鉄砲商人 鉄砲が南蛮よりわが国に伝えられた十七年。今一番の鉄砲でございます。

じい  戦も近い。まとまった数がほしいのじゃが、そろうかな。

鉄砲商人 はい、買っていただけるのでございますか。数日いただけましたら、何丁でも

    そろえますが。

息子  ざっと百丁。

家来2 三河まで届けていただけるかな。

鉄砲商人 はいはい。この伊勢から三河まであっという間でございます。舟でまず西尾ま

    で渡りまして、そこから舟を乗り継いで矢作川を上りますれば、広瀬はすぐで

    ございます。

家老  では、よろしくたのみましたぞ。

鉄砲商人 はい、年末までにはお届けいたします。ありがとうございました。


場面6 出陣の朝

三宅高清はじめ一同整列、家族も遠巻きに見る

三宅の妻 あなた、いよいよご出陣でございますね。

三宅  ああ、出陣じゃ。

三宅の妻 織田様を待ってから出陣なさってもよいのではないのですか。

三宅  これ。すでに意を決したことじゃ。そなたが言うことではない。

三宅の妻 はあ。

三宅の息子 母上。ご心配くださりますな。われわれには、百丁の鉄砲がありまする。そ

    して、なによりわれらは三河武士団。おめおめ死んだりはしませんぞ。

三宅の妻 そなたまで、そんなことを。

三宅の娘 兄上。どうかご無事で。

三宅の息子 うん。行ってくる。今から腕がなるは。ははは。

三宅の娘 母上。兄上の今の言葉をお聞きになったでしょう。大丈夫でございますよ。

三宅の母 そうでしょうか。何か変な胸騒ぎが。

三宅の息子 ご安心を。敵の武将の首を土産に帰ってきますから。それよりも、おりさ、母

    上をよろしく頼んだぞ。

三宅の娘 はい。お任せを。父上、兄上が出陣されたあと、しっかり守りまする。

三宅  さ、行くぞ。

    (向きを変える。妻と娘は礼をする)

家来1 皆の衆、よろしいかな。この一戦は、絶対に負けられない戦いでござーる。

    これまでの松平に対する積年の恨みを晴らす時は今日をおいてない。

じい  おやかた様におつかえして四十年、今こそ、その恩に報いる時じゃ。

三宅  松平方はこれまでになく多くの兵を送ってきた。すでに高橋を越えたと聞いてお

    る。しかし、われら広瀬の武士は、いささかもたじろぐものではない。ここにわ

    れらの力を見せようぞ。

家来1 おやかた様。

一同  (口々に)おやかた様。

三宅  いざ。出陣じゃ。

一同  おう。

    (一同、出陣。)

喜助の娘 お父。行っちゃいやだ。(喜助の足元に走りよる)

喜助  おりさ。来ちゃだめだ。お父は、大丈夫。死なないからな。

喜助の娘 いやだ。いやだ。おっ父。行っちゃいやだ。

喜助  (娘の目線で)約束だ。おりさ。きっと帰ってくるからな。(娘の手を振りほどく

    ように)

喜助の娘 行っちゃいやだ。お父、お父、お父―。(泣き崩れる)

 

暗転

ナレ  :戦いは、今の扶桑町で行われ、後の徳川家康である松平元康の軍と死闘が繰り

    広げられた。


場面7

 

元康、総攻撃を指示。舞台上で合戦の始終を表現。

 

元康  それ。攻撃じゃ。松平の力を存分に見せてやれ。

三宅  かかれ。今こそ力を発揮しろ。

 

(一進一退@)

 

元康  数はこちらが優勢じゃ。右から攻めよ。

三宅  それ鉄砲隊。撃って撃って撃ちまくれ。

 

(一進一退A)

元康  服部、服部はおらぬか。

服部  はは。ここにおりまする。

元康  手はず通りじゃ。今すぐかかれ。

服部  は。

 

家来1 おやかた様。松平の軍勢、ひいておりまする。

三宅  そうか。元康め。まいったか。これがわれらの力じゃ。じい、一気にかかれ。

息子  私目がかわりまする。

三宅  おお、よいところにおった。かかれ。

息子  は。全軍かかれ。

 

(一進一退B)喜助、ここで斬られる「おりさ―」

家来2 おやかた様―。城が。城が。われらの広瀬城が燃えておりまする。

三宅  何い。(ふりかえり愕然とする)

    (しばらくして)

家来3 三宅高貞様、山本様(家来1)討ち死にされました。

三宅  なに、高貞が?おのれ、元康め。

じい  わが軍、総崩れになりましてござる。おやかた様。

三宅  (大きくうなずき、舞台中央から体育館後方をにらんだあと、退場)

    (舞台裏から元康側のときの声「エイ、エイ、オー」)

ナレ  :この古鼠坂の戦いで、三宅氏は大敗を喫し、広瀬城は落城しました。三宅高清公の息子高貞様

    は自害なされ、妻、娘も捕らえられました。


場面8

 

舞台中央、喜助の娘、一人泣いている。

広済寺の僧 (手を合わせながら回向してまわる。娘を見つけて声をかける)おやおや、

      どうしたのじゃな。

喜助の娘 (すすり泣きながら)お父が死んじゃった。おやかた様も死んじゃった。みん

     な死んじゃった。(泣き崩れる)

広済寺の僧 おお、よしよし。泣くでない。泣くでない。そうか、お父もこの戦いに行っ

      たのか。

喜助の娘 うん。

広済寺の僧 大変な戦じゃったそうな。多くの方が亡くなられてしもうた。わしも、僧と

     して何とか亡くなられた方の霊をお鎮め申し上げようとおもうてな。ここまで

     やってきたのじゃ。でも、あちらにもこちらにも多くの方の亡骸があって。胸

     が詰まるおもいをしておりましたところじゃ。三宅方だけでなく、松平の兵も

     多い。こんな戦いはこれきりにしたいのう。

喜助の娘 和尚様。お父は、極楽というところに行ったのかなあ。

広済寺の僧 うん、うん、そうじゃ、そうじゃ。

広済寺の僧 お父の名前はなんと言うのじゃ。

喜助の娘 おっ父の名前は喜助っていうんだよ。

広済寺の僧 そうか。喜助さんか。よし、拙僧が弔ってしんぜよう。

    (しばらく間を置いて)

喜助の声で子守唄

広済寺の僧 おや。どなたか、こちらにやってくるぞ。

 

喜助の声、だんだん大きくなる。

 

喜助の娘 あ、おっ父だ、おっ父が来る、おっ父が来る。おっ父、おっ父―う。

 

 

 

 

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