1997年日本視聴覚教育協会主催 視聴覚教育賞 視聴覚教育奨励賞受賞

「発見・驚き・感動のある授業をめざして −テレビ会議システムの効果的活用−」


1 はじめに

 科学技術の急速な進歩、押し寄せる情報化・国際化の波の中で社会は激しく変貌している。このような社会情勢の変化は学校教育にも影響を及ぼし、学校の役割そのものも知識・技能の注入から、生涯教育の一環として学びかたを実につけさせる場へと変化してきた。

 本校では、ここ数年、「ふるさとに学び、豊かな心を育成する環境教育」をテーマに、総合学習としての環境教育の研究実践を進めてきた。自然環境や地球環境、人的環境を教材化し、それらに直接触れて学習することを重視した。また、インターネットやテレビ会議システムをはじめとするさまざまな視聴覚メディアを効果的に活用することにより、自分たちの環境を守る心や態度を育てていきたいと考えた。

2 主題設定の理由と研究仮説

 ここ数年の教育現場でのマルチメディアパソコンの導入とインターネット活用のための環境整備は、めざましいものがある。100校プロジェクトおよびこねっとプラン参加校以外でも多くの学校がホームページを開設するか、もしくは開設への動きを見せている。また、社会科や理科といった教科学習の中で、子供たちが自らの調べ学習の1つの手段として、ホームページの閲覧を行っている。しかし、現状ではまだまだ小学生の調べ学習を支えることに適切な物は数少ない。内容が一般的であったり、文字や文章を読み取るだけで時間がかかってしまったりというものがほとんどである。子供たちの問題を追究しようという意欲になかなか答えられないのである。各学校で作るホームページが子供向けの情報を充実させていくことこそ、着実な方法であると考える。

 そのなかで、マルチメディアパソコンを介してテレビ会議システムを学習に生かすことを重視したいと考える。子供たちの学習に幅を持たせるとともに、相互の子供が情報の発信元であると同時に情報の受け手であるということで、情報の正確さや即時性が求められる。さらに、お互いが教え合うために、どうすれば相手に間違いなく話す内容が伝わるかを子供たちは真剣に考えるようになる。情報のやりとり=共に学ぶ、ここにこそ子供たちが発見し、驚き、感動する場があると考え、本研究に取り組むことにした。

研究仮説

 自らの設定した追究問題を解決するために、聞き取りや取材、情報収集を効果的に行うことで、自分の地域の現状を主体的にとらえる子供たちの目を養うことができる。そして、自分の地域の様子だけでなく、他の地域の現状や問題点を知ることで、さらに自分の地域に対する関心や愛する心が高まるであろう。

 

3 研究の実践と考察−4年「広瀬の水、大研究」の実践と考察−

 (1) 本校の総合学習としての「いしがせ学習」

当初、環境の学習を従来の教科での指導として、生活科、社会科、理科に位置づけて研究を進めてきた。しかし、これでは教科指導のねらいや内容の枠にどうしてもとらわれることになる。もっと自由に複合的、総合的な指導ができないかと考えた。さらに、子供たちの意識の中に自分たちの住む地域の学習をしているのだという親しみや切迫した取り組みをさせたいという願いが生じてきた。そこで、私たちは教科の枠にとらわれない環境の総合単元学習を設定することにした。そして、その名称を「いしがせ学習」と名づけた。

いしがせの由来

 本校は昭和30年に現在の校名になる以前は、「石下瀬(いしがせ)小学校と呼ばれていた。学区の地域名である力と枝そして広からつけられた地名である。古来の名前に、環境教育の4つの願いを込めて、いしがせ学習としたものである。

   い…生き物を育ててみよう

   し…自然の中で遊ぼう

   が…学校から地域へ目を向けよう

   せ…世界の仲間と進めていこう

 (2)単元構想と実践 

  ア 水に対する教師の願い

 水。日本人にとって、こんなに容易に手に入るものはなかった。どの地域にも川が流れていたり、また豊かな地下水を利用したりしていて、自由自在に使えるものという認識すら持つようになった。「水に流す」という言葉が日常的に使われているぐらい、水=川が私たちの生活の汚れを浄化してくれるものという認識がある。しかし、我が国の高度経済成長期に起こったいわゆる公害というものは、多くの場合水が関わっていることが多かった。さらに、水資源開発という言葉のもとに、大きな河川はもとより、中規模の河川にも、また同じ川の中にいくつものダムが建設され、結果として水質の悪化を引き起こしてしまった。

 4年生の子供たちは、5月に行った第2回矢作川大曲クリーン作戦の経験を待つまでもなく、川が汚れていると考えている。一方、理科で学区の小峯川で魚を捕まえたり、ヤゴを捕まえたりした経験から、川を大切にすることが必要なことも実感している。4年生では、これまでの環境学習の上に立って、矢作川を総合的にとらえていく第1段階として、資源としての活用を考えさせたいと考えた。生物の生息に大きく関わっている矢作川に、人間の活動は多くの場合マイナス要因のみを与えている。しかし、それをできるだけ減らそうとしていることにも、本単元を通して目を向けさせたかった。そこで、以下のように単元目標を設定した。


 単元目標 

  1. もっとも身近な川、矢作川の水がどのように利用されているかを調べ、特に飲料水としての活用について、人々がどのように取り組んでいるかを自分なりの表現で発表することができる。
  2. 人々の生活と矢作川の関係を調べ、上流から中流、下流までのそれぞれの地域での資源としての矢作川の有効利用や環境保全の大切さを考え、その実現に向けた具体的な方法を話し合うことができる。

  イ 子供の追究

   (ア)水は矢作川から来る?

 矢作川を水資源として見つめる上で、まず飲料水としての活用を考えさせることにした。子供たちは、矢作川の水が自分たちの飲み水であることは知っている。しかし、矢作川からどのようにして学校へ、自宅へ届くのか皆目検討がつかない状態であった。そこで、校内や家庭の水道調べを行い、自分たちが思ったよりも奥の水を実際に消費している事実をつかんだ。

 さらに、学校から学区へ飛び出し、水道管がどこから来ているのかを探し当てることができた。東広瀬配水場では、自然流下によって家庭に水が送られていることに気づき、実際に水道管を見ることができる富国橋では、水道管からの水漏れが富田地区に住むK男の家にも影響があるのではないかと心配する声も出た。

   (イ)FAX大作戦、そして浄水場・配水場で「?」をさがそう

 学区の水道探しの後、配水場から先、矢作川までを調べなければならなくなった。そこで、豊田市水道局、上水運用センターにファックスを入れたり、電話インタビューをしたりして、調べを進めた。5月15日には、県豊田浄水場、市配水場を実際に見学して、自分たちがそれまで疑問に思っていた問題を解決することができた。その中で、水道の安定した、安全な供給を第一に考えている人々の願いに目が向いてきたようである。

 水質試験室で見たきれいにされた水の水槽の中で飼われている金魚の存在に気づき、また、場内の池に入ってくる矢作川の水がどんどんきれいにされていくことに驚きの声を上げた子供たちである。見学を終えて、自分の追究する問題の出し合いを行った。感想にもあるように、多くの子供が水をきれいにすることにおじさんたちが細心の注意をはらっていることや、市と県が計画的に水道事業を進めていることを理解した。さらに、水の資源としての重要性に気づいて、自分にできることを考え、実行した子供もいた。

   (ウ)「こうすいって何?」

 ここまでの追究の結果、ほぼ自分たちの問題は解決しているのだが、他の市町村も同じように水道事業を行っているのだろうかという、新たな疑問が湧いてきた。さらに、子供たち自身、1年生の時に異常渇水によって、水泳学習を行うことができなかった経験を持っているので、水不足についても考えることにした。

 そこで、テレビ会議システムを使って、水不足が予想される沖縄県の宮古島と接続し、お互いの水道に関する情報交換をする授業を組むことにした。テレビ会議システムは電話のデジタル回線を使って、映像と音声を送るもので、パソコンを介してファイルを転送することもできる。本校には、昨年12月に導入され、これまで田原町立田原東部小学校、北海道占冠村立トマム小中学校と交流学習に使用してきた。本年1月には、前の4年生が授業参観でトマム小中学校の4年生と単元「雪国のくらし」で北海道の冬の生活の様子をたずねることができた。

本学級も4月にテレビ会議システムを使って沖縄県平良市立北小学校の子供たちと自己紹介や学校紹介程度の交流を経験している。これまで水道の安定・安全供給を考えるうちに、北小学校の子供たちは島で生活していて、水不足になることはないのだろうかという、疑問がわいてきた。交流学習が始まると、まず本校からこれまで学習してきた豊田市の水道について発表した。

  1. 水道の水と矢作川の水を見せて、浄水場で川の水がきれいな水になることを説明。
  2. 矢作川から自宅や学校までどのように水が運ばれてくるかを発表。
  3. どうして水道が必要なのか、水道の歴史についての発表。
  4. 水道局のおじさんの願い
  5. 自分たちの経験した水不足についての話。

 ここまで本校が発表し、いよいよ北小学校の発表になった。豊田市と同じように水をパイプで取材し、浄水場で水をきれいにしているという話に、子供たちはうなずきながら聞いていた。しかし、次の言葉を聞いた途端、子供たちに大きな疑問が湧いた。

 「宮古島の水は硬水なので、石鹸を使ってもあまり泡が立ちません。」この言葉がコンピュータのスピーカーから出てきたのである。画面の北小学校の子供は平然とした顔である。本校の子供たちは、口々に「こうすいってなんだろう。」「どうして石鹸の泡が出ないの。」とささやきあっている。T.H児が「こうすいってなんですか」とたずねると、「地下水を使っていて、水がミネラルをたくさん含んでいるそうです。」という返事。ここで、また疑問が出てきた。子供たちは、水道の水は矢作川のような大きな川から取るものだとばっかり思っていたのである。地下にダムを造って水を貯めている宮古島の様子が、コンピュータ画面のホワイトボード上に、手書きで書き表されていった。北小学校の先生が宮古島の地下ダムについて説明してくださったのである。「宮古島には(大きな)川はありません。」この言葉も本校の子供たちに驚きを与えた。そして、最後に「この地下ダムのおかげで、宮古島では今後10年間は水不足にはならないそうです。」という言葉で宮古島からの発表が終わった。子供たちには、新たな発見と驚きの連続であった。

感想

   (エ)児童T.Hの変容

 学級の中での彼の存在は大きい。運動能力の高さもさることながら、すぐに行動に移すところに友達は注目している。しかし、十分考えずに行動したり、友達にちょっかいをかけたりするため、今一つ学級の中で彼が浮いた存在として扱われる。彼は、他の児童に比べて、生活経験が豊かで、多くのことを知っている。社会科の授業では、そのいろいろな生活経験に基づいた意見をよく出している。本単元でも、浄水場の見学でほとんどの子供が施設・設備に注目していたのに対し、彼はおじさんたちが夜中も仕事をしていることに目を向け、「がんばってくれている」と評した。こういう彼の意見を取り上げることで子供たちの思考に幅を持たせた。他の子供授業感想にも「T君が地下水について質問したことがすごいと思いました。」との彼の良さに気づいた記述があった。多くの場合、よい考えを持っていてもそれを授業の中で十分生かすことなく終わってしまうことがしばしばあった。今回の北小学校とのやり取りの中で、自分が着目した点を言い切ったことで自分の発言に責任を持つようになった。どうすれば相手に言いたいことが伝わるだろうかという、相手に対する思いやりの気持ちも表れてき たことも今回の成果と言える。

 (3)考察

 ア 水道探しの旅について

 水道について、校内の施設を見て回り、いよいよ「東広瀬にはどこから水がくるのか」という問題解決に出た。はじめは水道のいろいろな栓、マンホールを追い続けていた。「泥吐弁」という言葉に出くわして、「どうやって読むんだろう」、「どろっていう字だね」という声があがった。結果は上水運用センターの見学で「どろはきべん」という名前に落ち着いたが、子供たちは自分の家や学校から水道をたどってきたことにより物事に対するこだわりが見えてきた。たった1つの水道の弁という、今まで見過ごしていたような事柄にも着目するようになったことが担任としてうれしかった。

 イ 北小学校との授業について

 @ 事前の打ち合わせが重要

5/26と日にちを決めてから北小にお願いしたために、向こうもかなり苦労されたのではないだろうか。同じ単元構想で進むという取り組みも今後ぜひやってみたい点である。いずれにしても、前もって見通しを立てて進めることが必要である。

 A テレビ会議システムの活用について

 インターネット上のホームページに比べて、授業で有効であると考える。北小の子とのリアルタイムでの反応、画像での資料提示など、子供たちに大きく影響を与えている。

 4年生にとっても、やはりホームページは興味あるものだが、実際にそこから考えたり、資料として役立てたりすることには無理がある。もっぱら、情報発信・自己表現の場として位置づけたい。

B 教師の出場

 教師ができるだけ出ずに、子供同士の自由な話し合いの場を保証することが重要である。テレビ会議システムを活用するにあたって、はじめはなれないかもしれないが、教師は、コーディネーターか、ディレクターに徹するべきであろう。そこから臨機応変・自由自在に司会をこなす子が育てる必要がある。

4 終わりに 

 今回の実践では、テレビ会議システムの活用を通して、子供たちの追究をさらに高めることにつながった。自分たちの生活圏の中だけで考えるだけでなく、国内の別の地域ではどうかと考えることによって、改めて自分たちの住む地域の特色、特徴をとらえることができた。

 さらに、情報をリアルタイムで送り、受けることを繰り返し行うことで、情報の送り手・受け手としてのモラルやエチケットが身についていくように思う。遠く離れた相手だからこそ、相手を思いやり、分かりやすい表現を心がける必要がある。電子メールにしても、ホームページにしても、一方的な情報であり、情報発信者が見えてこないメディアである。そこに、テレビ会議システムを活用することや、従来の聞き取りや取材を効果的に組み合わせることによって、子供たちの、自分たちの地域や環境を正しく見る目が養われ、次代に主体的に活動できる子供たちに育つことを期待する。

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