ヨコハマ買い出し紀行

芦奈野 ひとし 

かつて実用のために
光っていた街灯
今は
ただ光るため
だけに光る



黄昏の時代・・・気候変動による海面上昇により人の領域はゆっくりと減って行き、 技術文明は退行してゆく。 人々はそれぞれのペースで日々のくらしを営み、時はゆっくりゆっくり流れる。
そんな時代のなかで、ロボットらしくないロボット、 アルファとその周りの人々の過ごす”ぽわーん”とした日常の風景を描いた話。

キャラクター中心のほのぼのしたストーリー部分と雰囲気を盛り上げる部分とが自然につながり、 ゆったりした時の流れる世界を築いている。
読んでる方も同じ時の流れに溶け込んでしまって、 なんだかゆったりな気分になる。

ただ、温かい幸せな気分の奥にほんの少しだけ寂しい気持ちが混ざる。

この世界の雰囲気を作り出しているのは、この世界の人々の「価値観」。
無理せず、急がず、多くを望まず、あるがままを受け入れる
そんな価値観を持った人々が成す世界だから、 風景も、物語も、程良く力が抜けてくつろいでいる。

ヒトという種は世界が緩慢な死を迎えようとしているからといって、 こんな風にすべてをを受け入れられるほど強くはないだろう。
もっと悪あがきして、諦めきれず、自暴自棄になって、自滅しちゃう、 そんな感情的な生き物だと思う。

だけど、少なくとも自分という人間はこの作品のゆったりした空気を楽しんでいるし、 こんな世界に憧れている。

現実の豊かで便利な生活に浸かりながらも、 時代の要求するペースに焦りと疲れを感じている。
そんな中でこの作品を読んでいる間だけは無い物ねだりの欲求が癒やされる。

5巻の背表紙にある作者の言葉

昔、「あの時もっとしっかり見とくんだったな」
と思ってた場所に
10年ぶりに行って思うのは
10年前のその日にこそ、
よく見とけば良かったということです。
今見なければ、
きっと10年後もそうなんだろうなあ
とも思います。

この10年前に見られるはずだった風景から、この作品は作られている。
決して現実には得られないモノだと知っているから、 あこがれだからこそ美しいということを知っているから、ほんの少し寂しい。

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しまった。「ほんの少しの寂しさ」のほうに重点が行ってしまった。

あくまでもこの寂しさは隠し味。

ゆっくりした時の流れと、ぽわーんとした人々と、温かい空気と、くつろいだ風景と、ほのぼのした物語は、 読む人を幸せな気分へと誘い込んでくれます。
仕事の一段落した夜にページを開けば、 緊張してた気持ちがほっとする、そんな作品です。


ヨコハマ買い出し紀行 (1)〜(8)/芦奈野ひとし
講談社/アフタヌーンKC
アフタヌーン連載中

タカヒロ!うらやましすぎるぞ!!
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