主人公の一砂は父親の友人に預けられ育てられた。
ある日、昔父と暮らした家を訪れると、そこには父と共に暮らしているはずの姉千砂がいた。
彼女から父が死んだこと、そして父が自分を遠ざけた理由を聞く。
それは母方の血筋に伝わる遺伝病。発作的に他人の血が欲しくなり、理性を失なってしまう。
母の死もこの病のためだった。
父はやはり発症した千砂と二人で人目を避けて暮らすため一砂を遠ざけたというのだ。
「もうここには来ないで」と言われ帰宅した一砂だが、
最近血を見て起こす貧血がこの病気のためであることに気づき再び千砂のもとを訪れる。
周りの人を傷つけてしまうのではないかという一砂の葛藤。
幼少の頃から不治の病を負い、二人きりで暮らしてきた父を失った千砂の、一砂への複雑な思い。
互いに惹かれながら、遠ざかろうとする一砂にとまどう八重樫。
一砂に病気のことを知らせたく無いために、父の死を隠す江田夫妻。
千砂を愛し、父亡き後の千砂を見守る水無瀬。
それぞれの複雑な心理が十分なページをかけて丁寧に描かれている。その見せ方が非常にうまい。 読んでるこちらにまでそのやりきれない苦悩がじわっと伝わってくる。 (あー語彙が少なすぎてうまく表現できん)
自分にとっての冬目景の魅力は,この何とも言えないもやもやとした気持ちを感じさせてくれること。 『僕らの変拍子』や『黒鉄』を読んでも、冬目景が描きたいのは「気持ち」なんだなと思う。
でも『羊のうた』がいちばんイイ。何がイイってあの全体に漂う閉塞的な雰囲気。
これが物語の展開にも登場人物の心理にも重くのしかかっていて、緊迫感をすごく高めている。
なんでこれだけの雰囲気が出すことが出来てるのか正直言って分からない。
設定も、話の展開も、台詞も、コマの構図も、すごくうまいんだけど、
どれも「これだ」という決め手にはならないような気がする。なんなんだろう?
とにかく作品としてもっているあの雰囲気には読む度に引きずり込まれてしまう。
物語の展開はメチャメチャ遅いけど、でも毎回読み応えがある。
未読の人はぜひご一読を。