船を建てる  鈴木 志保


墜ちる旅客機の乗客や
沈む客船の乗客や
天使がユメみるくらいに

そこは とっても遠いの



この作品との出会いは偶然だった。
本屋で見かけた表紙には謎なタイトルと謎な生物。
ちょっと迷ったけど、その日の気分で何となく買ってしまった。
で、結果は当たり!すぐに残りを買いそろえてしまった。

しかし、まさか、これがアシカとは・・・・。

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出てくるアシカたちはみな純粋で、一途に何かを信じている。
友情。愛。過去。夢。未来。

そんな彼らの胸に、ふと訪れる、いわれのない不安。漠然と感じる寂しさ。
それに気づいてしまった瞬間から、彼らは逃れることの出来ない心の袋小路へ追いつめられていく。
どうしたらいい?どうすることもできない!パニック!!

そんなときには、あわてたってダメさ。
  コーヒーを煎れて。
    煙草に火を付けて。
       目を閉じて。
              ワン、トゥー、スリー。

ほら、時は過ぎて行くし、物事はなるようになるさ。
気楽に行こうよ、ケセラセラ。
そのうちみんなハッピーになれるよ。

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すばらしいのはその見せ方。
白く広がる画面にシャープな線、白と黒のコントラスト。絶妙な構図の作り出す空間と時間。
その中に、ぽん、と置かれた言葉たちは時にあまりに厳しく、時にあまりに楽天的で、僕の気持ちに突き刺さる。

とにかくすごくセンスがいい。

ミニマルな絵が好きな人なら、一度ページを開いてみて欲しい。
この人がウェブサイトをデザインしたらすごくクールなのが出来るだろうな。

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作者は自称「リチャード・ブローティガン好きっ子」で、タイトルもほとんどそのまま使ってる。

「ビッグサマーの敗軍将軍」←「ビッグ・サーの南軍将軍」
「SALMON FISHING IN MONTANA」←「TROUT FISHING IN AMERICA」
#他にもあるんだろうけど僕はこれくらいしか知らない

で、触発されて「ビッグ・サーの南軍将軍」と「バビロンを夢見て」を読んでみた。

鈴木志保が「なんとかなるさ」なのに対して、 ブローティガンは「なるようにしかなりゃしないさ」といった感じかな。
どちらも厳しい現実を前にして、諦めてるんだけどね。
でも、諦めきれずにそこで立ち止まるよりも、別の方向に歩き出せるのなら、その方がいい。
クソみてぇな世の中なら、鼻をつまんで生きていく。結構快適なもんかも。


船を建てる 全6巻/鈴木 志保
集英社/ぶ〜けコミックワイド版

「あんパンのへそ」って・・・?
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