人間

 人間という言葉がいつから使われたか分かりませんが、原義は広辞苑に出ている意味、「人の住む場所」ということのようです。漢字の人は人の形です。中国では文字は霊的なものの現象と考えられていたでしょう。日本語のヒトのヒは霊であり、トは所、物のことか?とあります。様々な霊が依ったり、憑いたりする場所、物ということでしょう。つまり人間とは他者との関係における人をいうのでしょう。人間学-anthropology-は、ギリシャ語の人間-anthroposu-に由来するということです。古代ギリシャも霊的時代のことですから、霊的存在としての人のことでしょう。
 欧米では人間科学というときは-human science-と表現します。おそらくその違いを認識しているからでしょう。しかし日本人には人と人間の違いはほとんど意識されないようです。それは「霊魂の思想」の「日本の霊魂観」、「日本人の思想」で記してあるような日本人の魂の在りようから来ることでしょう。人間学は人学とか人性学というほうが正しい翻訳だったのでしょうが、戦後日本では人間は社会的動物に過ぎないのですから、適合しているといえるのかもしれません。
 よく人間不在といいますが、それはヒューマニズムにおける、倫理的理性としての人間の喪失を意味します。ヒューマニズムとは、人間という動物の本性には、善や真理を求める理性が備わっている、という一種の信仰でした。二つの世界大戦は、理性は善や真理を求める本質でないということを人類に教えたのです。大量破壊兵器を作るのも理性なら、戦争の策略を練るのも理性なのです。それなら人間の本質とは何か?が問題になります。