ア・バオア・クー宙域    陥落より2時間後

 

「こちら第四小隊、周辺宙域に敵影なし。これより帰還する。ストラブール、応答されたし」

「こちらストラブール。本館は現在Eフィールドにて臨時艦隊を編成中である。各MS隊はEフィールドドックにて補給を受けよ。」

「了解した、これよりEフィールドのドックへと向かう。」

「こちら第1補給艦隊だ、推進剤及び弾薬をもってきたぞ!何処へ送ればいい?」

「こちら臨時コントロール。第1補給艦隊はSフィールドに展開中の、第77戦隊と合流せよ。」

「了解した。これより向かう!」

「・・・・・・こちら第7地区。捕虜数名が怪我を訴えている。医薬品はまだか?」

「回線が混雑しているぞ!はやく直せ!」

 陥落したア・バオア・クー内では、占領後の捕虜の処理や補給、艦隊の再編成に追われていた。

 レビル艦隊を失い、最初から混乱した形で戦いに突っ込んでしまったので、正規の艦隊編成については、誰もが分からなかった。加えて重濃度のミノフスキー粒子が、各艦隊間とコントロールセンターとの通信を妨害しており、混乱はいっこうに終息する気配はなかった。

 しかも、戦いに参加した艦艇の、実に6割近くが損失もしくは損傷しており、修理や負傷者の収容のため、湾港設備を使う予定でいたのだが、残っていた湾港設備は、ジオンが放棄する際にほとんど破壊されて、使い物にはならなかった。

「こちら中央コントロール、推進剤及び弾薬の補給が終了した艦からFフィールドに集結せよ。」

「各MS隊もこれに合流。残存艦隊は逃走した敵部隊の追撃に入る。急げ!!」

 事後処理の中でも最大の問題となったのが、ジオン本国から通信されてきた、敗残兵部隊の逃亡である。

 国家としてはすでに停戦宣言を出しているが、依然として多くのジオン兵たちが戦う意欲を失ってはいなかった。

 ジオンの現最高責任者であるガルシア首相は、必死に投降を呼びかけているようではあるが、ギレン・ザビをはじめ、ザビ家自体に忠誠を誓っている将校も多いらしく、その事態の収拾には困難を極めていた。

 要塞を陥落させた連邦軍にとっては、この事態はまったくと言っていいほど誤算であった。この要塞さえ落ちれば、国力のないジオンは間違いなく降伏し、戦争は終わると信じていたからである。

 ジオン軍の最高司令官であったギレン・ザビの戦死も確認された今になって、戦意など失っていると思っていただけに、多くのジオン軍が逃亡を図っていると聞いたときには、連邦軍将兵たちは落胆し、愕然とした。

 すぐさま傷ついた艦隊を再編成し、この逃亡艦隊を降伏ないし、殲滅しなければ、彼等はこの先もジオンの亡霊達と戦う羽目となるからである。

「こちら臨時艦隊旗艦、戦艦ウッドローである。当艦隊はと4時間後に、逃亡したジオン艦隊追撃の任につく、艦隊要員は出撃態勢を怠るな。諸君、もう一踏ん張りである、諸君らの活躍に期待する。以上だ」

 

サラミス級巡洋艦「グラント」MS格納庫

艦隊指揮官の演説をMSのコクピットの中で聞きながら、ヴェン・フォッカーは襲ってくる睡魔と戦っていた。

(ったく、ついさっきまであれだけ戦わせといて、たった4時間の休息しか与えないつもりかよ。・・・・・・・・・・・・・・お偉いさんがたはわかってないね〜)

 そういいながらフォッカーは目頭を指でつまみ上げて、眼の疲れをとろうとした。知らず知らずにあくびも出ていた。脱力感と虚無感だけが今の彼を包んでいる。

 ・・・・・彼は要塞内に最初に突入したMS部隊の指揮官であった。12名の部下の内、生き残ったのはわずか4名。正面攻撃をやるには、あまりにも味方の援護がたらなすぎた。彼の部隊は突入後、敵の挟撃にあい、援軍が到着するまでの1時間。灰色の色で統一された十数機のジオン軍MS隊に囲まれて防戦を繰り広げることになった。全滅しなかったのが不思議なものである。

 しかも、隊は壊滅状態のまま、この追撃作戦の任につくという。まったく兵の疲れなど気にしていない軍の命令に、フォッカーは怒りを抱いていた。

「ふぅ・・・・・・・・・・・ジョージ、スミス、ヘンリー・・・・・・・・・・・・早く楽になりたいぜ。」

 フォッカーは死んでいった部下達の名を口にした。彼にとって8名の部下の死は、隊が編成されてからずっとやってきていた仲間達だっただけに、彼等が死んだことは、耐え難い苦痛だった。 

 「少佐!フォッカー少佐!」

 コクピットで目をつむって少しでも疲れをいやそうとしていたフォッカーの耳に、外から叫んでいる部下の声が聞こえた。

「・・・・・おう、ハリソンかぁ?・・・・・・・何のようだ?」

 けだるい思いを感じながらもフォッカーは返事を返した。

「少佐、艦長が呼んでますよ。」

 無重力の力を使って床から上がってきたハリソン軍曹は、開かれていたコクピットのハッチにしがみつくと、中に座っていたフォッカーにそういった。

「艦長がぁ?・・・・・・・・んなもん。無線で回せばいいものを・・・・・・・わざわざ人を呼びつけるなよな。」

 フォッカーが今愛機を休ませているサラミス級巡洋艦の艦長は、フォッカーと同じ階級であり、指揮系統上もまったく命令を受ける義務はなかった。もともとフォッカーが所属していた艦は、激戦のさなか傷つき、現在は修理中であり、隊が壊滅したフォッカー隊は、混成部隊としてこの艦に配属されていた。

「さぁ、自分に言われましても。どうせジャブロー勤務だったんでしょうて、エリートって奴ですよ。・・・・・あいつら、MS乗りなんて下っ端だと思ってますからね、おれたちがいなければ、MSの攻撃であっという間に沈むってことが、ルウム以来でも分かってないんですよ。」

 連邦軍が誇った虎の子の宇宙艦隊が完全な敗北を喫したルウム戦役。ジオンのMSの威力を圧倒的に見せられ、連邦軍の基本戦術の改善が考えられることになった戦いであったが、軍内部では大艦巨砲主義がいまだに根強く残っていた。しかも、MSの推進派の中心人物ともいえた、レビル将軍はすでに戦死しており、大艦巨砲主義派は勢力の回復を狙っていたりもする。

 そういうやからは特にジャブロー勤務の高級官僚に多く、ジオンの敗北が目に見えてきたこの時期になり、前線で点数を稼ごうとして、突然前線にやってきた将校も少なくない。

 この艦の艦長アンドリュー少佐も、そんな中の一人であった。

「まぁそういうなハリソン軍曹。ぼっちゃんたちにはぼっちゃんたちのやり方ってもんがある。いちいちそれに反発していたら、なにをやらされることやら。」

 フォッカーは投げやりな返事をして、はだけていたノーマルスーツをちゃんと止めると、コクピットから出た。無重力に放り出された身体は、艦橋に通じるハッチめがけて漂う。

「ああ、軍曹。あとの二人に伝言を頼む。」

 遊泳しながら身体を上手にひねって、フォッカーはコクピットにしがみついたままのハリソンに向かっていった。

「なんです?少佐殿?」

「短くても良いから、ちゃんと身体あらっとけと言っておいてくれ。あと、飯もたらふく食っておくようにと!」

 言い終わったところで、フォッカーはハッチにたどり着き、敬礼をハリソンに向けてから、ハッチの向こうに消えた。

 

サラミス級巡洋艦「グラント」ブリッジ

「フォッカー少佐!君らはいった何をしていたのだね?報告書によると、君は8機もの貴重なMSを、みすみす敵に破壊されたようではないか?指揮官たるもの、戦術というものは常に頭に入れておくべきではないのかね?」

 とても同階級の者への口調とは思えない態度で、艦長のアンドリュー少佐はフォッカーに問いつめた。一言一言が新兵に浴びせるような口調で、まるで自分が将軍か何かと勘違いしているとしか思えないと、フォッカーは思った。

「それにだ。君達の部隊は残存4機、それで補充をよこせだと?まったく、図々しいとは思わないのか?君らのような奴がいるから、我が軍はジオンの豚どもに負けてきたのだ!それがまだわからないか?連邦軍魂というものをしらんのか?」

 声は艦橋じゅうに響き渡り、オペレーターをはじめ艦橋にいる作業員は全員アンドリュー罵声にしかられるフォッカーを哀れんでいた。

(・・・・・・・このおおバカが。だれが補充をよこせなんて言った、4機じゃ作戦行動がとれませんと報告したんだろうが・・・・・・・・・・・なにが連邦軍魂だ、この時代錯誤のド阿呆が。ジャブローのプロパガンダ放送に影響されやがって。俺達が負けたのはお前らみたいなのが作戦を執っているからだろうが。)

 フォッカーは耐え難い侮辱の中、拳を握りしめながらアンドリューの言葉を聞いていた。・・・・・・・もしもこの艦橋に、彼と二人だけだったならば、彼は腰に据えてある拳銃で、アンドリューを撃ち抜くくらいの気持ちだった。

(・・・・・・・どうでもいいから。はよ終われってんだ。・・・・・・・こっちは少しでも休息をとりたいんだよ・・・・・・・・・)

 そう思うフォッカーとは裏腹に、アンドリューは何も言わないフォッカーが、自分の剣幕に萎縮してしまい、何も言い返せないのだと勘違いし、他の下士官への見せしめと思ったのか、どんどんとテンションが上がっていく。

 艦橋にいた下士官達は、だんだんとエスカレートしていくアンドリューを、軽蔑と憎悪の念で見ていて、何とかしてフォッカーが一矢報いないかと期待していたが、フォッカーにそんな気配がまったくなさそうなので、期待の気持ちは次第に同情へと移り変わっていった。

 罵声を浴びせること30分。最後の方はなにか自分の自慢話になりつつあったアンドリューの話が終わりかけ、フォッカーも艦橋作業員達も安心しかけたとき、何を思ったのか、アンドリューがいきなり平手打ちをフォッカーにかました。

「どうだ!?これで少しは気合いが入るだろ?よし!もういいぞ、少佐。早く持ち場に戻りたまえ。」

 一方的に話を終え、平手打ちまでかましたアンドリューは、不意の平手打ちで少しよろけていたフォッカーに背を向けてキャプテンシートに座ろうとしたその時、まるで今までの怒りを返すかのような、フォッカーの強烈なフックが、アンドリューの頬に決まった。

 無重力空間を一直線に壁に向けて飛んでいくアンドリュー艦長。その軌跡をなぞるかのように血が空間を漂う。

 一瞬、艦橋に居合わせた誰もが固まった。しかし、すぐにアンドリューが完全に気絶して、漂っていることがようやく理解でき、驚きのあまりその場で固まる者やガッツポーズをとる者、ある者は喜びの声を上げそうになった。

 殴り飛ばした当の本人、フォッカー少佐は。殴った姿勢のまま、3秒ほど止まり、アンドリューが完全に沈黙したのを確認してから、

「・・・・・ああ、すっきりした。」

といって、すたすたとブリッジをあとにしてしまった。

 残された艦橋要員達は、すっきりとした気持ちの中で、とりあえず吹っ飛んだ艦長の介抱をしないといけないと思い、人並み程度に気遣って、完全に白目をむいて倒れている艦長を、医務室まで運んでいった。

 しかし、艦橋に戻ってからはその話で、艦橋はいつまでも盛り上がることとなった。

 

「えええ!!!!!??艦長を、な・ぐ・り・と・ば・し・たああああああああああああ!!!!????」

 あまりにも衝撃的な言葉が艦橋から戻ってきたフォッカーの口から出たので、ハリソン軍曹はその場に倒れそうになった。

 軍に勤続すること27年。多くの士官達を育ててきたハリソン軍曹にとって、フォッカーの行動は、はっきりいって100万ボルトの電流を目の前でスパークさせたかのような衝撃であった。

「いくら同階級の人だからといって、艦長を・・・・・・・・・・少佐。あなたは間違いなく最前線送りです。俺が保証します」

 フォッカーの方を掴みながら、なかば諦めた表情でハリソンはそう言った。

「そういうなよ、軍曹。気がついたら艦長殿は空を飛んでいたのだ。俺の責任では・・・・・」

「あなた以外に誰の責任だというのです!!?ああ、まったく。これで故郷に帰れると思っていたのに!!・・・・あなたの部下であることを、今日ほど呪ったことはありませんよ。」

 ハリソンはほとんど半泣きの声で気落ちした。

「まぁ、やっちまったことはしかたないじゃないか。それに君は俺の最前線送りを保証してくれたが、仮に君が艦長の前にいたら、ものの5分で艦長の死体がそこに舞っていたと思うぞ。」

 崩れ落ちるハリソンを見ながら、フォッカーは精一杯の冗談と嫌みを含んだ言葉をかけた。

 ハリソン軍曹は普段はおとなしい親父軍曹なのだが、ひとたび切れると、はっきりいって艦隊の中で勝てる者がいないかと思われるくらい凶暴になるのであった。空手4段、柔道5段、自称プロレス歴12年の洗練された技は、はっきり言って肉弾戦では右に出る者はいない。 MSの戦闘技術に関しても、その腕はエースパイロット級である。開戦当初からセイバーフィッシュに搭乗して、ザクと戦ってきて、生き延びたのは運だけではなかった。

 そのハリソン軍曹は、早くからMS転換訓練を受けていたこともあり、多くのパイロット達を育ててきた。良い士官もいれば、出来の悪い士官もいたが、フォッカー少佐はそのなかでも特に、両方の性質を持っていて、ハリソンを困らせた。操縦技術に関して言えば、その天性の才を認める、しかし、同時に型破りな性格で、MSの無断使用、命令無視、MSの改造、酒や賭博で規則を守らない。などなど、あらゆる意味で問題児であった。

 その中でも今日のことは特にハリソンの記憶にこの先残るであろうことであった。なにせ一回のMSパイロットが、艦長を殴り飛ばしたのである。これはすでに軍規がどうのこうのいえる状況ではない、最悪の場合、極刑に処せられる可能性だってある。それなのに当の本人は楽観主義の一点張りで、自覚がない。・・・・・・もはや落胆や失望では済まない時限に突入していた。

「・・・・・・・・・・・・・で、艦長はどうなったんです?」

「いや・・・・・・・さぁ・・・・・・・・・・・・・殴ったあと艦橋作業員に任せてきちまったから。・・・・・・・どうなってるかな?」

 あくまで楽観論を述べるフォッカーに、ハリソンは天を仰ぐしかなかった。

 ・・・・・・・・・・その後、意識の回復した艦長は、自分の身に何が起きたのかを理解することができず、ブリッジ要員が、天井の操作パネルが艦長を直撃し、その衝撃で気を失ったのだと、証言したらしく、フォッカーへのおとがめはなかった。

「・・・ところで、自分たちはどうなるんですか?」

 気持ちを一新し、ハリソンもとがめることを諦めた

「ん?・・・・ああ、俺達はこのままサイド3へ進入して、残っているジオン軍の武装解除、そんでもって敵の追撃戦にはいるそうだ。まぁサイド3に残っている敵さんも少ないだろうから、追撃艦隊のほとんどがそのまま追うことになるだろうな。」

 どこからとりだしたのか、フォッカーはパック入りされたジュースを飲みながら語った。

「・・・・・・・ほう、で、肝心の我が隊の補給は?」

「それがな、その大事なところで艦長殿は吹っ飛んでいってしまったからなぁ、整備班の人間に聞くしかあるまい。・・・・・・ま、どうせどっかの定数不足の隊と合流して、再編成といったところだろうて」

 パックに入ったジュースをあえて無重力空間に浮かべて、それをぱくついて食べるフォッカーを見て、ハリソンはどこまでも楽観的なこの上官に、なんともいえない安堵感を覚えた。

「そうですか。・・・・・・・少佐。死んでいった奴らの弔いはいつできますかね・・・・・・」

「そうだな、はやいとこやってやりたいものだ。・・・・・・・・・・この戦争ももう終わってるんだからな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わってるんですかね、ほんとうに・・・・・・・・・・・・・・」

 ハリソンは不安を隠さずに入られなかった、ジオンとの戦争は終わった。しかし多くのジオン兵が逃亡している現状を見る限り、この戦争はいつまでも続くような気がした。

「少佐。作戦開始まであと2時間です。どうします?」

 暗くなっていても仕方ないと思い、ハリソンは当面の問題のことに頭を切り換えることにした。

「そうだな・・・・・・・・・二時間あれば十分うまいコーヒーが飲めるな。それと・・・・・・・・・・・・」

「それと?」

「静かになった宇宙も眺めれるだろぅ・・・・・・」

 

 

ムサイ級巡洋艦「ペリクレス」艦橋

 「グレン中佐。俺達はどうすれば良いんです?出撃ですか?待機ですか?」

バウアーはキャプテンシートに座ったままの艦長、グレン・ヒュー中佐に詰め寄った。

「大尉、当艦はランカスター艦隊のしんがりをつとめている、連邦軍の追撃艦隊の攻撃に備えてな。イヤでもすぐに出撃してもらうかもしれんのだ、今は体を休めといてくれたまえ。」

「ご配慮には感謝します。しかし、我が隊はすでに心身共に戦う用意ができております。・・・・・・・せめて斥候にでも出させてください。」

 あくまで食い下がるバウアーを前に、グレンは困り果てていた。

 ランカスター艦隊が補給と合流を終え、徐々に集合地点であった宙域を出発しようとしていたとき、バウアーの所属するペリクレスは、しんがり艦隊の旗艦として指揮を執ることになった。当然、艦の戦闘隊長であるバウアーは、しんがり部隊のMS部隊長になったのだが、燃料などを節約したいグレンや艦隊幕僚の考えとは裏腹に、バウアーは積極的な防御陣形をしこうとしていた。

「大尉、君にも分かるだろう?我が艦隊は所詮は補給の見込みのない放浪艦隊なのだ。せめてアクシズまでの安全が確保されるまでは、無駄な燃料や弾薬の消費は避けるべきなのだ。・・・・・・・・・・これは艦隊指揮官として、当然の采配だと思うのだがね。」

「しかし、敵は明らかに我々より優性なのです、だったらこちらにも余剰戦力があると思わせるためにも、ここは威力偵察なり、それなりの行動をとっておくべきではありませんか?」

 どういっても出撃しようとするバウアーに、説得の万策つきたと思って、考えを巡らせるグレンの元に、通信兵から連絡が入った。

「艦長、シーマ艦隊より入電です、我が艦隊は機関不良艦をともなっているため、その艦を護衛しつつ航行するので、しんがりの任を引き継ぐ、とのことです。返信はいかがいたしますか?」

 突然は言ってきた思わぬ助け船だと、グレンは思ったが、神妙な顔をしてその報告を聞いていたバウアーの顔に気付いた。

「どうかしたのかね大尉?しんがりの任を変わるという報告だけだとういうのに、その顔は?」

「・・・・・・・・シーマ艦隊といいましたね?」

「そうだが、それが何か問題があるのかね?」

「いえ、・・・・・・・・・ただ、シーマ艦隊といえば、MS乗りの間では評判の悪い艦隊です。指揮官であるシーマ少佐は腕は確かなのですが、あまり軍人らしからぬ戦いをします。降伏した連邦軍を虐殺したとか、サイド6の補給船を襲っただとか・・・・・・・・・・・・・・そんな人間を信頼するので?」

 バウアーの顔がはっきりと不安と疑いの思いを表していたので、グレンはこれはただごとではないと感じた。

「・・・・・・・そんな悪評がある艦隊か・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし、ランカスター司令の意向でもある、我が艦隊にそれを阻止する権利はない。・・・・・・・・・・・よし・・・・・・・・・バウアー大尉、君に他の任を与えよう。」

 グレンはバウアーの耳をひきよせて、小声で任務を伝えた。それは他の部下達には聞こえてはならない命令であったからだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・本気ですか?・・・・・・・・・・・・・・確かに有効な手ではあると思いますが・・・・・・・・危険では?」

 グレンから言われた命令が納得できないのか、バウアーは戸惑っていた。

「大尉、これは命令を無視した上の、独断での行動だ。だが、もしもこの予想が当たったとき、当艦は危険な目に遭うことは必死だ。頼む。」

 グレンは深々とキャプテンシートに座りなおし、よくたくわえられたあごひげをなでまわした。

 バウアーは斥候よりもやりがいがありそうなその任務に、満足したようで、勢いよくブリッジをあとにした。

 そう、その任務とは、「シーマ艦隊の監視」であった。

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